915日、米国の大手証券会社リーマン・ブラザーズ・ホールディングスがCHAPTER 11(米連邦倒産法第11条)を申請した。日本でいうところの民事再生法である、と言うより、日本の民事再生法の見本が米国のチャプター・イレブンであったのだが。同法は現在の経営陣が退陣することなく会社再生の道を選べるという点で、会社更生法とは大きく異なる。とは言っても会社の倒産というきわめて深刻な事態であることに変わりはないのである。

 

 およそ10年前のこと。北海道拓殖銀行の破たんにつづく山一証券の自主廃業の発表。199711月、この日本で相次いで起こった社会を震撼させた大手金融機関の実質的な大型倒産。その翌年には日本長期信用銀行という大銀行の倒産などが続いた。リーマン・ブラザーズのCHAPTER11の申請を聞いて、あの時の背筋の凍るような金融危機の恐怖がまざまざと甦ってきた。事の発端は異なっていようが、これまでの経緯があまりにも似ているのである。

 

 サブプライム・ローン問題に端を発した世界的な金融不安は、これまでのところ自己努力による増資を中心になんとか決定的な金融危機を回避し、目晦(くら)ましのようにして、ごまかしごましでなんとかやって来たように見える。しかし、この99日、サブプライム問題の煽りを受け苦境に陥っていた米政府系住宅金融機関二社に対し、米政府が十兆円余にのぼる多額の公的資金による資本増強という政策パッケージを発表、両社を公的管理下に置くとした。この発表により逆にわたしは、米国の金融危機は生半可なものではなく、不良資産が不良資産を新たに生み出してゆく、未曽有の負のスパイラルの世界に入ったと判断し、憂慮を深めたところであった。

 

 その矢先の大手証券というより世界的大金融機関であるリーマン・ブラザーズのCHAPTER11の申請である。いま、米国にとどまらず欧州の金融機関も含めてサブプライム・ローンの痛手を互いの傷をなめ合うように増資をし合うことで、自己資本の毀損(きそん)に対処しようとしている。しかし、その増資による自己資本の増強という手法は、そのリンクの中にある、一社がつまずくことで、ドミノ倒しの危険を孕(はら)んでいる。「見せ金増資」とは言わぬが、最初の増資で自己資本を強化した金融機関が、他の金融機関の増資に応じ資本増強を果たす。それを繰り返すことで、みんな、資本は大丈夫であると何となく安心しているのが、つい、昨日までの状況ではないのか。

 

 リーマンが破たん。その直後にニューヨーク・タイムズ社がプライベート・エクイティのJCフラワーズらのAIGへの出資見合わせを決定し、同社が財務的危機に陥る懸念があると報じた。AIGは誰もが知っているように、130以上の国・地域に展開している世界的な保険・金融サービス機関である。そのAIGも危ないのか。

 

 ドミノ倒しが本格的に始まったのではないのか。無性に気味が悪い。真夏の夜の悪夢にならぬとよいが・・・、21世紀の世界大恐慌・・・などという恐ろしいことにならぬとよいがと祈るばかりである。