神々のふるさと、対馬巡礼の旅--- 15 阿麻テ留(アマテル)神社(中)
神々のふるさと、対馬巡礼の旅--- 15 阿麻テ留(アマテル)神社(下)
神々のふるさと、対馬巡礼の旅 ―― 番外編(三柱鳥居と天照御魂神社の謎)
神々のふるさと、対馬巡礼の旅 ―― 1

阿麻テ留神社の扁額
卑弥呼畿内説や大和王朝至上主義の史観に囚われることなく、「日本書紀」を純粋に歴史書として注意深く読んでいると、対馬が、ある時代、天孫降臨族の本貫地として認識されていたことを示唆する記述があることに気づく。
すなわち、「紀」に対馬が天孫族の発祥地であることを窺わせる「日神」に関わる一連の記述がある。それは壱岐における「月神」の顕現に続いて、対馬では「日神」が人に憑依し、託宣を行なう様子として描かれている。
まず、その「日神」・「月神」の生誕についてであるが、「紀」は伊奘諾尊(イザナギノミコト)と伊奘冉尊(イザナミノミコト)の二神が大八洲国を生み、山川草木を生んだ後、「天下(アメノシタ)の主者(キミタルモノ)を生まざらむ」として、「日神(大日孁貴(オホヒルメノムチ)or天照大神)を生みたまふ」たとある。
そしてこの日神があまりに明るく美しく、「未だ此(カク)の若(ゴトク)く霊異(クスビニアヤ)しき児(コ)有らず」と類稀な神秘性から、伊奘諾尊と伊奘冉尊は、「久しく此の国に留むべからず。自当(マサ)に早く天に送りて、授くるに天上の事を以てすべし」と、地上から天上界へ昇らしめ、高天原の政事(マツリゴト)を担うこととさせたのだと語っている。
次に「月神(月読尊(ツキヨミノミコト))を生みたま」ひ、さらに「其の光彩(ヒカリ)日に亜(ツ)げり」と、月神の美しい光は「日神」に次ぐもので月神は日神に従属するものと捉えられている。そして月神も日神とともに天上界を治めるため同じく天上界へと昇っている。
その日神と月神の坐す処が「対馬」および「壱岐」であるということが、「紀」の「顕宗(ケンゾウ)天皇3年」に記されているのである。顕宗天皇(23代):在位485−487
【紀:顕宗(ケンゾウ)天皇3年2月条 任那と百済の攻防】(月の神について)
「三年の春二月の丁巳(テイシ)の朔(ツキタチ・一日)に、阿閉臣事代(アヘノオミコトシロ)、命(オホミコト)を銜(ウ)けて、出でて任那に使す。是(ココ)に月神(ツキノカミ)、人に著(カカ)りて謂(カタ)りて曰(ノタマ)はく、『我が祖高皇産霊(タカミムスミノミコト)、預(ソ)ひて天地を鎔造(ヨウゾウ)せる功有(コウマ)します。民地(ミンチ)を以(モ)ちて、我が月神に奉(タテマツ)れ。若(モ)し請(コヒ)の依(マニマ)に我に献(タテマツ)らば、福慶(フクケイ)あらむ』とのたまふ。事代、是(コレ)に由(ヨ)りて、京(ミヤコ)に還りて具(ツブサ)に奏(マヲ)し、奉(タテマツ)るに歌荒樔田(ウタアラスダ)を以ちてす。歌荒樔田は、山背国葛野郡(カヅノコホリ)に在り。壱伎県主の先祖(トホツヤ)押見宿禰(オシミノスクネ)、祠(ホコラ)に侍(ツカ)へまつる。」(次の「*」に続く)
とある。阿閇臣事代(アヘノオミコトシロ)(注1)が任那に使いする途中、壱岐を通過した際、人に憑依した月神の「京の民地を我が月神に奉れ」との託宣に触れ、山背国葛野郡の歌荒樔田の地を献上したことが記述されている。
(紀の注1)
「阿閉臣事代:伊賀国阿閉郡(三重県阿山郡西部・上野市)を本拠とした氏族。天武十三年十一月、朝臣賜姓。アヘは饗応の意味で、それに因む氏族名。阿倍臣(アヘノオミ)と同じ。始祖は孝元天皇と皇后鬱色謎命(ウツシコメノミコト・穂積臣の女)の第一子である大彦命(オオビコノミコト)で、阿倍臣・膳臣(カシハデノオミ)・阿閉臣・狭狭城山臣(ササキヤマノオミ)・筑紫国造(ツクシノクニノミヤツコ)・越国造(コシノクニノミヤツコ)・伊賀臣(イガノオミ)の七族が後裔。」とある。
* なお、「15 阿麻テ留(アマテル)神社(中)」において、「紀」とは異なる「阿閉臣事代」のわたしの解釈を述べる。
この託宣した月神は「延喜式神名帳」に掲載される「壱岐郡月読神社」の祭神と看做されている。高皇産霊(タカミムスミノミコト)は延喜式神名に「壱岐郡高御祖神社」とある。この月神に続いて、日神についての記述が登場する。すなわち、先の「*」から続き、
【紀:顕宗(ケンゾウ)天皇3年春4月】(日の神について)にそれが詳しく記載されている。
「夏四月の丙辰(ヘイシン)の朔(ツキタチ)にして庚申(コウシン)に、日神(ヒノカミ)、人に著(カカ)かりて、阿閉臣事代(アヘノオミコトシロ)に謂(カタ)りて曰(ノタマ)はく、「磐余(イワレ)の田を以ちて、我が祖高皇産霊(タカミムスミノミコト)に献(タテマツ)れ」とのたまふ。事代、便(スナハ)ち奏(マヲ)して、神の乞(コハシ)の依(マニマ)に、田十四町を献る。対馬の下県直(シモツアガタノアタイ)、祠(ホコラ)に侍(ツカ)へまつる。」
と、壱岐の月神に続き、阿閇臣事代が対馬に立ち寄った時に、今度は日神が人に憑依し「我が祖高皇産霊(タカミムスミノミコト)に大和の磐余に神田を十四町、献上しろ」と、託宣しているのである。
ここで、日神が造化三神(神代三代)のひとつである高皇産霊を我が祖と云っていることは、極めて重要な事柄である。即ち、天孫族の始祖である高皇産霊のために、対馬に坐ます日神が、大和朝廷に対し「神田」の献上を命じ、朝廷がその意向に従っている。さらに壱岐同様に対馬の下県直をわざわざ都に遣わし、祠を建て、その献上地を祀らせている。その記述の内容は畏怖する神に大和王朝がひれ伏すかのようで、そのことは対馬の日神・壱岐の月神が天孫族の系譜のなかで大和王朝の御祖(ミオヤ)として上位にあることをはっきりと示唆していると云ってよい。
しかも見逃せないことは、日神に「我が祖高皇産霊(タカミムスミノミコト)」と、云わしめていることである。それはまさに、天照大神の親神である伊奘諾尊・伊奘冉尊から遡る神代7代のなかの3代目にあたる高皇産霊尊という意味で「我が祖高皇産霊」と云っているのである。このことからも対馬に坐す「日神」が単なる太陽信仰というのではなく、天孫族の系譜のなかにおける「日神」すなわち「天照大神」であることに間違いはないと云える。
* 神代三代・七代について
日本書紀において、神代3代(造化の神と呼ぶ)がこの世界に初めて生まれ出た神様で、すべて男性神である。
・国常立尊(クニトコタチノミコト)→国狭槌尊(クニノサツチノミコト)(or 天御中主尊(アマノミナカヌシノミコト))→豊斟渟尊(トヨクムヌノミコト)(or 高皇産霊尊(タカミムスヒノミコト)の順で生まれ出る。これを神代三代と呼ぶ(赤字が神代三代)。
・神代3代の次に生れたのが、4対偶の男女4カップルの神(8柱の神)で、先の3代と合わせ神代7代と呼ぶ。その最後の7代目に生まれたのが、伊奘諾尊、伊奘冉尊の男女神である。
・伊奘冉尊と伊奘冉尊は、大八洲国を生み、山川草木を生んだ後、「天下(アメノシタ)の主者(キミタルモノ)を生まざらむ」として、「日神(大日孁貴(オホヒルメノムチ)or天照大神)」、「月神(月読尊(ツキヨミノミコト))」、「蛭児(ヒルコ)」、「素戔鳴尊」と順に生んでゆく。
神々のふるさと、対馬巡礼の旅--- 15 阿麻テ留(アマテル)神社(中)
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神々のふるさと、対馬巡礼の旅 ―― 番外編(三柱鳥居と天照御魂神社の謎)
神々のふるさと、対馬巡礼の旅 ―― 1
「三年の春二月の丁巳(テイシ)の朔(ツキタチ・一日)に、阿閉臣事代(アヘノオミコトシロ)、命(オホミコト)を銜(ウ)けて、出でて任那に使す。是(ココ)に月神(ツキノカミ)、人に著(カカ)りて謂(カタ)りて曰(ノタマ)はく、『我が祖高皇産霊(タカミムスミノミコト)、預(ソ)ひて天地を鎔造(ヨウゾウ)せる功有(コウマ)します。民地(ミンチ)を以(モ)ちて、我が月神に奉(タテマツ)れ。若(モ)し請(コヒ)の依(マニマ)に我に献(タテマツ)らば、福慶(フクケイ)あらむ』とのたまふ。事代、是(コレ)に由(ヨ)りて、京(ミヤコ)に還りて具(ツブサ)に奏(マヲ)し、奉(タテマツ)るに歌荒樔田(ウタアラスダ)を以ちてす。歌荒樔田は、山背国葛野郡(カヅノコホリ)に在り。壱伎県主の先祖(トホツヤ)押見宿禰(オシミノスクネ)、祠(ホコラ)に侍(ツカ)へまつる。」(次の「*」に続く)
(紀の注1)
【紀:顕宗(ケンゾウ)天皇3年春4月】(日の神について)にそれが詳しく記載されている。
「夏四月の丙辰(ヘイシン)の朔(ツキタチ)にして庚申(コウシン)に、日神(ヒノカミ)、人に著(カカ)かりて、阿閉臣事代(アヘノオミコトシロ)に謂(カタ)りて曰(ノタマ)はく、「磐余(イワレ)の田を以ちて、我が祖高皇産霊(タカミムスミノミコト)に献(タテマツ)れ」とのたまふ。事代、便(スナハ)ち奏(マヲ)して、神の乞(コハシ)の依(マニマ)に、田十四町を献る。対馬の下県直(シモツアガタノアタイ)、祠(ホコラ)に侍(ツカ)へまつる。」
ここで、日神が造化三神(神代三代)のひとつである高皇産霊を我が祖と云っていることは、極めて重要な事柄である。即ち、天孫族の始祖である高皇産霊のために、対馬に坐ます日神が、大和朝廷に対し「神田」の献上を命じ、朝廷がその意向に従っている。さらに壱岐同様に対馬の下県直をわざわざ都に遣わし、祠を建て、その献上地を祀らせている。その記述の内容は畏怖する神に大和王朝がひれ伏すかのようで、そのことは対馬の日神・壱岐の月神が天孫族の系譜のなかで大和王朝の御祖(ミオヤ)として上位にあることをはっきりと示唆していると云ってよい。
* 神代三代・七代について