八ヶ岳中央農業実践大学校は中央高速小淵沢ICで降りて八ヶ岳の山裾沿いに通る鉢巻道路を20分ほど走ったところにある。新しい時代の農業者や農村の指導者を育成するのを目的とした農学校で、現在、六十名ほどの学生が全寮制による共同生活を送りながら、その研鑚に励んでいる。その大学のなかに八ヶ岳農場がある。と言うより、標高1300mの高原に広がる223haにおよぶ耕地や森林や草地のほんの一部に大学の建物が建っていると言ったほうが正しい表現だろう。その広大な八ヶ岳農場のさらにほんの一画に学生たちが作った農産物や畜産物を販売する直売所がある
トンガリコーンのような屋根を冠したかわいらしい円形の小屋が数棟建っている。そこが直売所である。その円形の建物のなかに一歩足を踏み入れると、童心に戻ったようなワクワク感に襲われる。そこには都会ではなかなか味わえぬとりたて野菜や新鮮な鶏卵などいたく好奇心をそそる「農」の制作物、作品と言った方がいいのかも知れないが、たくさん並んでいるからである。
「こんなに野菜って、ひとつひとつに表情があったのか」
直売所にならぶオモチャカボチャや色鮮やかなカラーピーマン、ズッキーニや青色の鶏卵などなどを目にするうちに、「農」というものに対する認識が変わってくる。「農」はきわめてクリエーティブな「業(ギョウ)」であり、エンターテイメントいやアートの視点から見ても、素晴らしい「業(ワザ)」であることを強く認識させられた。野菜の傍らに制作物である野菜の紹介文の書かれたダンボール紙が立て掛けられている。そして輝くような笑顔、誇らしげな表情をした制作者である学生たちの写真も一緒に貼られていた。まさにクリエーターの喜びを知っている人間の顔であった。
直売所前に広がる芝生広場では熱気球の体験搭乗が催されていた。信州の真っ青な空にふわりと浮かぶイエローとオレンジの色鮮やかな縦縞の気球が、今、目にしたオモチャカボチャに見えてきた。
信州へ足をのばされた際には、ぜひ立ち寄って見てはいかがであろうか。一見の価値は十二分にある。そしてそこの野菜たちとの語らいを楽しみにまた訪ねてみたいと思うこと請け合いである。