「船屋秋月」の“わらしべ長者”=旅人の見た京都のお菓子

老松の看板

住所:京都市上京区北野上七軒

電話:075-463-3050 FAX075-463-3051

営業時間:8:30-18:00 定休日:無休

厳寒の1月に京都を訪れた。冬の桂離宮と修学院離宮を拝観するのが目的であった。その次いでと言ってはなんだが、冬の京料理もいつものように楽しみであった。

老松の店構え
老松の店構え

帰京する最終日の朝、同行の女性陣のひとりが、「せっかくお正月に来たのだから、老松さんの花びら餅を食べたい」と言い出した。「花びら餅」はお正月だけに作られる御菓子だということで、裏千家の初釜には必ずこの「花びら餅」が独楽盆に載せられ茶菓子として使われるとのこと。茶道に造詣の深い方々には周知のことなのだろうが、とんとそちらに縁のないわたしには、「ふ〜ん!」といったところであった。

お店の前に上七軒を説明する駒札が立っていた。

そういうわたしの心中などお構いなしに、善は急げと女史が上七軒の老松に電話で確認したところ、「花びら餅」はまだ、作っているとのこと。北野天満宮の東に位置するお店へと早速に駆けつけ、風情ある店内になだれをうって入り込んだのである。

上七軒の五つ団子の紋章入り提灯の下がる店頭

 上七軒の紋章・五つ団子の提灯がさがる

老松ショーケース
落ち着いた店内のショーケース

初めて目にする「花びら餅」は半透明の求肥(ぎゅうひ)餅の肌越しにほんのりと桃色が浮き出た上品な羽二重餅であった。絹織物の薄くて繊細な光沢に満ちた肌触りが伝わってくるように思えた。その編笠の形に折られた餅の真ん中を貫く竹棒状のものが餅の両端から飛び出ていた。

花びら餅
求肥越しにうっすらと紅色が透けて見えるはなびら餅

はしたないと思いつつ、タクシーのなかでひとつ旬なところを食して見た。竹棒状のものは何と牛蒡(ごぼう)であった。餡は白味噌仕立てで、表面の餅の内側にうすい紅色に色づけられた餅が重ねられ、それがほんのりと表面に浮き出ていたのだと分かった。何とも心憎い手練であり、また可愛らしい。

花びら餅包装
包装されたはなびら餅

思いがけないほどにしっとりとした牛蒡の味も、牛蒡臭さがほとんど消され、わずかに香る牛蒡の味が、上品さのなかにある種の野趣を感じさせた点は、まさに匠の技と言ってよい。

新年を彩る老松の菓子
新年を彩る老松の菓子

旅の仲間のひと言で、今年は正月からまさに「初春」を感じることが出来て、「持つべきものは友」を舌とお腹で実感したものである。そして「花びら餅」の編笠でなく蛤とも見ようによっては見える形状とそれを貫く牛蒡に秘められた別の意味があることを知ったのも、やはり「持つべきものは熟年の友」の御蔭である。

新年菓の老松箱詰め
老松の新年菓の詰め合わせ

深夜の帰宅となったその日、午前零時に家内共々、賞味期限が明朝?いや当日の「花びら餅」とつい買ってしまった新年菓(育み・北野の梅・丑の春)を茶菓子に、ミニ茶会を催した。 

深夜の茶会

おいしかった!!

 
そして、後日、その時買い求めた「流鏑馬(やぶさめ)」を食べたが、これまた上品な餡の味でわたし好みであった。いやぁ、メ・タ・ボ街道まっしぐらか・・・   

流鏑馬
しっとりした舌触りの”流鏑馬”

花びら餅の正式な名前は「菱葩(ひしはなびら)」と呼ぶのだそうで、二重の紅色の餅が菱形のところから来ているのかも知れない。次は、明治時代にこの「花びら餅」を初めて作ったと言われる同じ京都の「川端道喜(かわばたどうき)=左京区下鴨南野々町2-12)」の「菱葩(ひしはなびら)」にぜひ、挑戦してみよう。