小倉智昭、箕輪はるか「肺結核公表はおかしい」ぃ〜?
4月7日のフジテレビ情報番組「とくダネ!」でメインキャスターの小倉智昭の発言にわたしは耳を疑った。
同キャスターは、女性お笑いコンビのハリセンボン(吉本興業東京本社所属)の箕輪はるか氏が肺結核に罹患し、入院した事実を公表したことに疑問を呈した。芸能人といえども個人情報保護法の観点から病気疾患について公表するのは行き過ぎではないかといった主旨のことをこのニュースを伝える冒頭においてかなり強い口調で語ったのである。
結核は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法)」(平成10年10月公布・最終改正平成20年6月)で危険性が高い順に一類から五類までに分類されたなかで、二番目の危険度の第二類感染症に分類されている。結核という病はそもそも「結核予防法」として別立てとなっていたものが、平成18年の「感染症予防法」の改正公布により翌年で廃止、同法に統合されている。
現に第一及び二類の政令で定めるものの疑似患者についても、それぞれ第一類感染症の患者又は二類感染症の患者とみなして、この法律の規定を適用するとなっていること自体を考慮すれば如何に第一、第二類感染症という病気が重篤な病であるかが窺える。
そうした感染症予防法で他に第二類に分類されているものを挙げれば、結核以外に「鳥インフルエンザ(H5N1型)」や「重症急性呼吸器症候群(SARS)」という恐ろしい伝染病が選定されている。そう思い至れば感染症の名前を聞くだけで、結核という過去の病と思っていた伝染病の重篤性は素人目にも高いものに見えてくるのである。
そうした第二類感染症の結核についての認識が、天下の「とくダネ!」のキャスター小倉智昭氏においてあまりにも甘すぎるというのが、率直な思いなのである。というよりキャスターを業とする人間としては至極、不勉強極まりないと言いたいのである。
今回のケースを考えると、劇場やスタジオといった閉鎖性の高い空間で、しかも不特定多数の人間が移動しないなかで、空気感染する「結核」の細菌が浮遊していた状態が、ある一定時間続いたという特殊性を考慮せねばならない。飛沫感染(3ft以内)よりも広範囲で感染の可能性が高い空気感染(3ft以上)という状況が問題とされるところであり、感染病として問題視せねばならぬ所以であると言わねばならぬ。
因みに結核の罹患者は平成19年でも25,311人(h18.26,384人)もあり、平成19年の罹患率(1年間に発病した患者数を人口10万対率で表した数字)は19.8である。過去の数値で昭和40年の309.9、昭和50年の96.6からすれば大きく減少はしているが、依然、交通事故死亡者数を大きく上回り、直近の年間自殺者数の85%程度の人数にあるのである。決して無視できぬ数字であることは言うをまたない。
当日のコメンテーターの東京大学名誉教授の方が「(公表をした)吉本興業の判断は迅速で適切であった」と、その対応を是とし評価していたので安心はしたが、何ともこの小倉智昭氏の「結核」についての不勉強ぶりは正直、目を覆いたくなるような映像というより惨状であった。キャスターと名乗って今後も仕事をされるのであれば、コンサートやオリンピック巡りばかりに時間を費やさず地道な勉強をしてもらいたいところである。
それにしても第二類感染症でしかもその感染可能性(人気芸能人)の特殊性に思いを致せば、目を剥きしたり顔で「個人情報保護」の視点を重視した発言をするキャスターの「常識」を疑ってしまうのである。当日のスポーツ紙などが「結核パニック」と煽っていることを本来は「冷静な対応を」と諌めるべきであって、決して、したり顔して目を剥いて「個人情報保護」などと取ってつけたような理屈を振りかざすべきではないのである。
小倉氏の言わんとする根拠は「感染症予防法」にいう(国民の責務)第4条「国民は、感染症に関する正しい知識を持ち、その予防に必要な注意を払うよう努めるとともに、感染症の患者等の人権が損なわれることがないようにしなければならない」の後段部分であろうが、前段部分が欠落していれば後段の文言は何の意味をなさぬことを彼は知らねばならぬ。
また、彼は第三章「感染症に関する情報の収集及び公表」の(情報の公表)第16条
の「厚生労働大臣及び都道府県知事は、第十二条から前条までの規定により収集した感染症に関する情報について分析を行い、感染症の発生の状況、動向及び原因に関する情報並びに当該感染症の予防及び治療に必要な情報を新聞、放送、インターネットその他適切な方法により積極的に公表しなければならない。第2項 前項の情報を公表するに当たっては、個人情報の保護に留意しなければならない。」の第2項の「個人情報の保護」に意を用い過ぎたと思うしかないのである。
改正前の「感染症予防法」では第16条「公表」についてはただ「厚生大臣及び都道府県知事は、第12条から前条までの規定により収集した感染症に関する情報について分析を行い、感染症の予防のための情報を積極的に公表しなければならない。2項 前項の情報を公表するに当たっては、個人情報の保護に留意しなければならない。」とある。「新聞、放送、インターネットその他適切な方法により」とあえて改正法においてメディアの重みを具体的手段として加えて述べているのである。
その時代的重み、平衡感覚を知ってか知らずか、当の小倉氏はその日に冒頭の発言を行なったのである。
こうした以上の意味においてわたしは小倉氏のメインキャスターとしての資質を問わざるを得ないと考えるのである。