5月13日、警察庁より「平成21年中における自殺の概要資料」が公表されたが、それによると、H211月〜12月の一年間に自殺した人数は、32,845人であった。前年比一挙に8,472人も急増したH10年に、32,863人と初の3万人台に上ってから残念なことに、これで12年連続、その大台を割ることがない。

 

今回の自殺の原因・動機別状況でも分かるように、自殺の原因で最も多いのは「健康問題」である。H21年で46.7%(15,86733,987人)と、約半数を占めており、前年が47.5%(15,15331,921人)であったことからもその傾向に大きな変動は見られない。順に「経済・生活問題」24.6%(前年23.2%)、「家庭問題」12.1%(同12.3%)、「勤務問題」7.4%(同7.6%)、「男女問題」3.3%(同3.5%)、「学校問題」1.1%(同1.2%)などとなっている。


【遺書等の自殺を裏付ける資料により明らかにできる原因・動機を自殺者一人につき3つまで計上可能としたため、原因・動機特定者の原因・動機の和(H2133,987)と原因・動機特定者数(2124,434)とは一致しない】

 

ただ、その中身をより詳細に眺めると、健康問題の内訳に「うつ病」の項目があり、H21年で6,949人に上っていることは、原因・動機を考える際に、留意が必要である。「うつ病」を起因とする自殺者は、「健康問題」の43.8%を占め、全体(33,987人)のなかでも20.4%と1/5をも占めている。

 

長年の不景気によるリストラへの不安や過重労働、職場環境の悪化など、次に述べる「経済・生活問題」に起因する自殺者とも不即不離の関係があると見るべきである。仮に「うつ病」の1/3(2,316人)が「経済・生活苦」から来るものと仮定して再計算すると、H21年の原因・動機別の比率は「健康問題」の39.9%に対し「経済・生活問題」は31.5%と、3割台で並ぶことになる。

 

現に過去最高の自殺者を出した平成15年(34,427人)は、小泉内閣による市場原理主義への急激な舵切りから、日経平均株価がバブル期以降の最安値の7,607円を記録し、名目国内総生産も490兆円と当時の最低水準に下落した。また労働環境も非正規雇用者数比率が30.2%と、初めて3割を超えるなど社会不安が世に蔓延した時機であった。

 

ここで、戦後の自殺者数の経年別推移を概観すると、昭和30年に野村芳太郎監督の映画「大学は出たけれど」が公開された時分の昭和29年に、初めて20,635人と、2万人台に突入した。

 

そして高度経済成長が始まった昭和35年に18,446人と6年ぶりに2万人台を割り、16年間、1万人台で推移した。

 

その後、オイルショックや狂乱物価、地価高騰などの経済の大激変のなか、昭和52年(1977)に復び20,269人と2万人を超えてから1997年(平成9年)までの20年間は2万人台の自殺者数が続く。

 

そして、実質GDP成長率がマイナス2.0%を記録し、また、現金給与総額伸び率もオイルショック以降初めてのマイナス(−1.4%)になり、その後7年間マイナスが続くことになった最初の年、平成10年(1998)に、自殺者数は32,863人と、3万人を超える事態となった。

 

それから今回の平成21年の32,845人まで、12年連続で自殺者3万人台が続いているのである。

 

過去の経緯を簡単に分析してみて、政治、とりわけ、われわれの生活に密着する経済情勢の動向如何が、自殺者数の節目となるような上下変動に大きく関わっていることが分かる。

 

まさに国政、就中、経済運営の巧拙が、国民が自ら尊い命を絶たざるを得ない悲惨な決断を惹起する重い鍵を握っているのだということを、政治家はもっと肝に銘じて知るべきである。

 

振り返って見て、直近の普天間問題や政治とカネの問題に収斂(しゅうれん)する政局は、残念ながら「経世済民」を政治の原点とする立場から見ると、国民を毎年3万人ずつ虐殺してゆく政治のあり方に、「やはり、それはおかしい!」と、言わざるを得ない。

 

そして、政治に携わる人々は、毎日100名に近い国民が自らの手でその命を絶たざるを得ない冷徹な社会を、この12年間の間、放置し続けていることの怠慢と無責任と国民の命を軽んじる自らの深層心理を、真摯に恥じるべきであると、強く訴えたいのである。