政権交代=静かなる革命は成就するか?

 

2009830日の第45回衆議院議員選挙において、鳩山由紀夫代表率いる民主党は公示前の115議席から193増の308議席を獲得する歴史的大勝を果たした。対する自民党は300議席から181減の119議席へと公示前の4割へとその勢力を減衰させた。

 

 日本の政治の勢力地図が過去にない劇的な転換を見せたのである。別の言い方をすれば、国民の手による静かなる革命と表現してもよい。

 

 過去、55年体制以降では、199389日に発足した細川内閣(退陣94428日・在任期間263日)が非自民政権として国政運営にあたったが、この政権は宮沢喜一内閣に対する不信任案に賛成票を投じた自民党造反組の羽田派が結成した新生党と武村正義グループの新党さきがけや細川護熙(もりひろ)率いる日本新党、さらに社会党、民社党、公明党など8つの政党、会派が連立を組んだ烏合の衆の非自民連立政権であった。しかも自民党は衆議院の第一党の地位にあった。ために、その後の政局運営は「ガラス細工の政権」と揶揄されたように多難に満ち、1年を経ずして退陣に追い込まれ、自民党が与党に返り咲いたのは周知のことである。

 

 それに対し、今回の民主党政権は参議院で過半数を押さえていない弱みはあるものの第一党の地位を占めており、二大政党制の確立を予想させる堂々たる本格政権と言える。特に98年からの新生民主党は政権交代を党是とし、二大政党政治の実現を目指した。その結党の夢が今回の総選挙によって実現を見たことになる。

 

 選挙後はそれまで以上に、マニフェストに掲げる子ども手当の創設や高速道路の無料化等その政策がばら撒きである、財源問題が不透明であるなどその実現性に関し様々な疑問の声があがっている。投票日翌日だったか、NHKの夜の各党討論会でも司会が岡田克也幹事長に対し政権担当能力への懐疑をぶつけた場面があった。そのとき岡田幹事長はまだ政権発足もしていない時点で、まだ国政運営の実際を見ることもなしに、そう言った質問をすること自体、「大変、失礼である」と不快感を露わにした。

 

 わたしも「無礼千万!」と、思ったものである。どうもこの国は何事につけ、性急な結論、結果を求め過ぎるきらいがあるようだ。そしてこの司会者は主権者たる国民が今回の総選挙で民主党に国政を託す選択をしたという重大な事実を軽視しているのではないかと、その見識を疑わざるを得なかった。

 

 国民は自らの意思により民主党に対しこれからの国政運営を託したのである。その意思の表われが308議席という歴史的数字による政権交代の実現なのである。そのことは、逆に、われわれ国民はその意思とそこからの結果に責任を持たねばならぬということを意味する。だからこそ、その意味において国民は与党となった民主党をゆっくりと育ててゆく寛恕の心を持つべきであり、成果を急かせぬ覚悟がわれわれに求められているとも言える。

 

 半世紀におよぶ一党支配の政治体制が、政治システムにとどまらず、日本社会の様々な組織や社会構造、意志決定のあり方などに硬直化や澱みそして癒着を生んできた。国民の意思を無視したそうした澱(おり)は、社会の仕組みの礎石に折敷き、長年の間に礎石の表面は汚泥に汚れ、ヌルヌルとし、その上に建つ社会構造の大黒柱がツルツル滑り、不安定な揺らぎを示していた。ここ数年、急速に進んだ社会格差や閉塞感といった負のエネルギーが、社会に充満していることは国民が、一番、よく実感していたはずである。そしてそうした状況を放置しつづけた自民党政治に憤りを覚えていたはずである。だからこそ、待ちに待った今回の総選挙において、一挙にその怒りを政権交代という形で爆発させたのである。

 

 この自明の理を民主党は忘れるべきではない。国民の意思を無視した政権は、今の小選挙区制度において、一日して簡単に与党の座から転げ落ちるという冷厳な事実を目の当たりにしたのだから。日本国民は決して愚かではなかったし、政治に無関心でもなかった。政治に対する積年の怒りを武力などという野蛮な手段ではなく、選挙という民主的手続きによって、政権交代という静かな革命の第一歩を成就させた良識ある国民であったと言える。

 

しかし、この静かなる革命を喜んでばかりはおられぬ。この革命の実質的な成否はまさに「これから」にあるからである。これからこの革命を真に国民のためにある、「正しき」方向に導くのは、実は、今回、政権交代を果たした与党民主党でもなく、ましてや細々、粗探しを行なう大手マスコミでもない。革命成就の成否は小選挙区の醍醐味を実感した、まごうことなき主権者たる国民自身の手の中にあることを知るべきである。民主党ではなく、国民が今回の政権交代を果たしたのである。その重要な歴史的事実をわれわれ自身が成したのであるということを決して忘れてはならない。