新緑の乗鞍高原温泉郷を巡る=乗鞍三滝(番所大滝・ばんどころおおたき)
新緑の乗鞍高原温泉郷を巡る=乗鞍三滝(三本滝・さんぼんだき)
最後に乗鞍三滝の“善五郎の滝”を訪ねた。アプローチの難易度では三滝のなかでここが一番楽であった。
また、その周遊コースに “牛留池(うしとめいけ)”という“逆さ乗鞍”を映すミラーレークもあり、観光スポットとしての充実度は高い。
鈴蘭橋の(下から来ると)手前に大きな駐車場があり、その駐車場の出入口のすぐ脇に“善五郎の滝入口”のポールが見える。ちょっと入路が分かりづらいが、大丈夫。
善五郎の滝への経路には白樺が多く、この季節はムラサキヤシオが咲き始めて、白と紫とそして新緑のコントラストが殊のほか素晴らしい。 この景勝を愛でる余裕があったのも、ほかの二つの滝(番所大滝・三本滝)と異なり、山道といっても一部を除き起伏は激しくなく、ゆったりとしたハイキング気分で歩けたからである。 駐車場から7、8分で善五郎の滝を上から見下ろせる滝見台へ到着。 雪解け水が豪快に落下する滝口の上方に目を転ずるとそこには冠雪の乗鞍岳が見える。 まさに絶景ポイントである。 そこから途中、急な下りがあるものの、危ない個所はないので足が少々弱った方、杖をついて歩ける人であれば、余裕で“善五郎の滝”まで行き着くことが出来る。 最後に一番厳しい下り階段があるが、手すりも整備された安定した階段なので、安心である。かなりご高齢の方も付き添いの方と一緒に見学に来られていた。 その急な階段を下り、木橋を渡ると遠くにもう一つの木橋が見える。その橋の上から“善五郎の滝”を正面に見上げる形となる。 その最後の木橋手前のエメラルド色した淵が後ほど知ることになる数百年前の滝壺である。 その淵からの清流を眺めながら岩壁沿いに歩くと、瀑布の轟音が近づいて来る。左手の山肌が迫り出しているので、最後の急な階段を十段ほど昇って、木橋に行こうとした時、すぎ左眼前に“善五郎の滝”の全貌が現出し、その迫力に息を呑むことになる。 その自然が造り出した演出は見事というしかなく、人の力で出来ることなど限りがあると、素直に納得させられる瞬間である。 ここは乗鞍三滝のなかでももっとも水飛沫が激しく、風の向きに拠って橋の上でも細かい飛沫が霧のように降って来た。 わたしは橋を渡り案内板が設置してある最も低くて滝に近い滝見台へ下りて行った。 床がびっしょりと濡れていた。まさに天気雨が降っているような様相である。防水カメラでもないのに、必死でシャッターに“善五郎の滝”をおさめたのが下の一枚である。 また、そこの案内板にこの滝は古来、後退を続けているのだと書いてあった。最後の木橋の下流側の淵が昔の滝壺なのだという。現在の滝壺は百数十メートルも後退していることになる。 そう思ってもう一度“善五郎の滝”に目を転じると、滝壺のちょっと上部に岩肌の突出した部分がある。30m上の滝口から猛烈な勢いで滝水が落ち、そこへぶつかり、豪快な瀑布の様相を造り出している。 しかし、それは同時にその岩肌を削ぎ落としてということでもあり、滝口の岩盤の研磨と相俟って、何百年、何千年という気の遠くなる年月を経て、新たな“善五郎の滝”の景観を造り続けていることを知った。 大自然の桁外れな力を思い知らされた時間であった。
出っ張った岩肌を滝水が削り取ってゆく・・・