NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を観ていて真鶴岬、伊豆半島へ行ってみたいと突然思いたち、ネットで探して公式HPから予約を入れたのが「湯河原ラクラッセ・ドゥ・シェネガ」という舌を噛みそうで、やたら覚えにくい名前のホテルであった。
ということで、当日、真鶴岬に点在する源頼朝や鎌倉武士ゆかりの地をめぐって、午後3時半過ぎにホテルへ辿り着いた。
石造りの外観はやや黒ずんだ箇所があるものの、その曲線の造形と門前の椰子の樹はまさに南欧のリゾートホテル、たぶん・・・
コートダジュールあたりにはこんな小洒落た建物があふれかえっているに違いないとイメージしたのである。Never been なのだから想像するのは勝手である・・・
実際にホテル前の通りの先には地中海ならぬ相模湾が覗いていた。
想像の翼はどこまでもひろがってゆく
木製のドアを開けると・・・正面に南欧のホテルにはきっとあるに違いない優雅な曲線を描くサーキュラー階段が待ち受けていた。
わたしは勇躍、期待に胸膨らませて1階のレセプションへとむかった。
木造りのぬくもりに満ちたレセプションの前がラウンジになっていた。
館内にはフランスの画家ルイ・イカールのアンニュイただよう絵画が数多く飾られ、この雰囲気は若い女性やカップルには最高なのだろうなと思ったりした。
さて、広い窓の向こうに水色の水が張られたガーデンプールが見えた。
これが最近、若い娘たちがしばしば口の端にのせる“バエ、バエ”、“映えスポット”というのじゃなかろうか?
・・・てな気分で脳内はう〜ん・・・ニースのプチホテル・・・
気分はアゲ!アゲ!・・・多分、これって死語・・・そしてチェックインをすませて3階のツインルームへと向かう。
レースカーテンに透けて小さなバルコニーが見える。
カーテンをあけて窓を開放するとプロヴァンスの白い太陽の光がまばゆい。
これはもう洋画「太陽がいっぱい」の世界である・・・
なにせ太陽がいっぱいなのである!!
映画の舞台はナポリとかイタリアだったような気もするが、それはそれ、脳内はコートダジュールである・・・
バルコニーの真っ白な椅子に坐っているのは、何を隠そう、アランドロン・・・
いやはや妄想は海原の涯てをつきぬけて水平線から夏空へと飛揚してゆく・・・
正気に返って・・・やっぱり・・・目の前には青い海が広がっている・・・
そしてはるか遠くに地中海に浮かぶ島影が見えている・・・
そんな白日夢をみせてくれるラクラッセ・ドゥ・シェネガはまさに大人のホテルである。
フランス語で灯台を意味する“Le Phare(ル・ファール)”が当夜のディナーをいただくレストランである。
そのスターターに本日のシェフからの「ひと口小皿」ですと差し出されたのが、驚愕の一品料理。
「相模湾で当日採れた鯵のエクレア」というではないか。
誰でもそんな料理・・・生臭さとチョコレート“鯵”ならぬ“味”は想像できない。
おそるおそる口に入れてみる。
このサプライズで一挙にディナーへの期待が膨らんだのはいうまでもない。
すばらしい演出である。
それからきれいにデコレートされたオードブル・・・「伊豆天城産軍鶏プレステリーヌと赤パプリカムースとビーツジャム」がはこばれてきた。
夏本番前の鮎、塩焼きだけが鮎じゃないと知らせる一品、おいしかった。
このあとにメニューにはない箸休めなるこれまた遊び心の一品が供された。
フレンチの箸休めが・・・お稲荷さんだなんて・・・
その興奮冷めやらぬなかお肉料理がやってきた。「黒毛和牛静岡育ちフィレ肉にグリル夏野菜と生姜香る仔牛のジュ」である。
当日は繁忙期直前ということもあって、ほかに一組のみのお客であったのでゆったりとした雰囲気のなかで心落ち着く食事が愉しめた。
また宴たけなわの頃、ハッピーバースデイのメロディーがピアノから流れてきた。もう一組のお客さまの誕生日なのだろう。
もちろんアランドロンとマリー・ラフォレは惜しみない祝福の拍手をおくった。
そして・・・「ショコラムースとメロンのゼリーに紫陽花仕立てヨーグルトのソルベ」なる長〜い名前のデザートが供され・・・
くわえてスタッフのスマートなおもてなしに・・・Merci beaucoup(メルシー・僕!!)と叫んだのはご愛敬である。
ところでラクラッセ・ドゥ・シェネガには2019年にできた温泉もある。
ここは湯河原である、温泉がなければと・・・ここはドロンも日本人・・・
この日の男湯はわたしの貸し切りであった。
ゆったりと温泉につかり、ミストサウナなる変わったサウナにも入り?至福のひと時を愉しんだ。
そしてベッドにはいるともう夢見心地。
翌朝の朝焼けも素晴らしかった・・・
早朝の大気のなか遠くまで視界がひろがり、初島の先、大島の島影が見えた・・・
・・・と、話してくれた。
もちろん私だって夢の中で地中海に浮かぶ島影をいくつも見ていたのだが、その話は宝物なので、細君にも話はしてあげていない。
この静寂の支配するプールサイドも南欧の気分がアゲ!アゲ!の生気あふれた若者にこそふさわしい世界へと姿を一変させてゆくのだろう・・・
そうそのとき悟らされた・・・