2の7 修学院離宮・上御茶屋・大刈込(おおかりこみ)
【大刈込】
後水尾上皇のこの離宮造営の真骨頂が「水」にこだわった「浴龍地」と「大刈込み」という構築物にあると言えば言い過ぎであろうか。
剪定された大刈込(堰堤上の並木の向うに浴龍池)
「水」に異様なこだわりを示す後水尾上皇は、この修学院の地において、比叡山山頂付近に源を発する音羽川(延長5.4km 高野川に合流)から分かれた谷川の水を堰き止め浴龍池と呼ばれるいわばダムを造ったが、そのダムの決壊を防ぐため周りには高さ15m、延幅200mにおよぶ大規模な土堰堤(えんてい)を築いた。
土壌を固めたうえに四段の石段を組み上げ強度を保たせたその法面(のりめん)は、針葉樹類(2科4種)、常緑濶葉樹類(11科23種)と落葉樹類(13科20種)の多種多様の樹木を植えた混ぜ垣で覆い隠し、無粋となりかねぬ堰堤の景観を「緑の大構築物」へと変貌させた。その構想や壮大であり周囲の「自然との共生」を目指したものと見える。下御茶屋から見上げても、その丘の上にまさか舟遊びの出来る宏大な池が広がっていようとは思いもつかない光景なのである。
大刈込の上の堤道と浴龍池
いかにも自然な丘に見えるのだから、その隠された趣向へのこだわりは常人の及ぶところではない。そして幡枝離宮(はたえだりきゅう=その上御茶屋の庭園が後の圓通寺の庭園である)という修学院離宮の前に上皇が営んだ洛北の山荘が庭園造営に不可欠の「水」という要素において大きな欠点を有していたことを思い起こすのである。
さらに比叡山を借景とする圓通寺の枯山水平庭にある4、50種類の樹木で造られた高さ1.6mの「混ぜ垣」のことに思いがゆくのである。
そうした意味でも後に拝観する「桂離宮」とはコンセプトにおいて本質的に異なっていると言える。
「大刈込の樹種」
(参照:「修学院離宮上之御庭大刈込の樹種」丹羽鼎三著)
1.針葉樹類(2科4種)
1.マツ科---杉・檜・樅 2.櫟(いちい)科---らかん槇
2.常緑濶葉樹類(11科23種)
1. モチノキ科---いぬつげ・くろがねもち・そよご・まめつげ・もちのき
2. イバラ科---かなめもち
3. ヒイラギ科---ぎんもくせい・ねずみもち・ひいらぎ
4. ツバキ科---さかき・さざんか・もくこく
5. ハヒノキ科---くろばひ
6. スイカズラ科---さんごじゅ
7. シャクナゲ科---しゃしゃんぼ・もちつつぢ
8. クスノキ科---しろだも・やぶにくけい
9. グミ科---つるぐみ・なわしろぐみ
10. キョウチクトウ科---ていかかづら
11. モクレン科---びなんかづら
3.落葉樹類(13科20種)
1. イバラ科---うらじろのき・かまつき・ざいふりぼく
2. カエデ科---おおもみじ・こはうちはかえで
3. キク科---こうやぼうき
4. シャクナゲ科---かくみのすのき・こばのみつばつつぢ・なつはぜ
5. ヘンルウダ科---からたち
6. ユキノシタ科---こあじさい
7. スイカズラ科---こつくばねうつぎ・やまうぐいすかぐら
8. 穀斗(かくと)科---こなら
9. ニシキギ科---こまゆみ
10. ウコギ科---たかのつめ
11. クスノキ科---だんこうばい・やまかうばし
12. ミヅキ科---はないかだ
13. クマツヅラ科---むらさきしきぶ
【2の8につづく】