1. 御幸門と表門
桂離宮の正門(御成門)は、離宮の北側にある「表門」であるが、天皇の御幸ほか特別な時以外に使われることはない。一般の拝観者は西側の「黒御門」と呼ばれる門から入苑する。
参観者入口の黒御門
実はわたしは桂離宮を3回拝観しているものの、表門を、いわゆる表から見たことがない。いつも、苑内の「御幸門」から内側を見るのみである。次回は黒御門から「穂垣」に沿い北上し、正真正銘の「表門」を見て来よう。
この穂垣沿いに行って右折すれば、表門
黒御門を入り、右手奥に隠れて参観者休所
入苑してすぐに「住吉の松」
「表門」は門柱が檜の丸太で造られ、両の戸は磨き竹を詰んで頑丈に造られているが、御幸道の両脇に植わる松の古木や紅葉、混ぜ垣の外にのぞく竹林とよく馴染んだ落ち着いた古色を見せている。
「御幸門」は木皮剥き出しの丸太の柱とケタで支えられている。屋根は茅葺切妻型の簡素な造りとなっている。
2. 外腰掛と延段
見学はいったん御幸門、表門内側を拝観し、その後、御幸道の中ほどを左に折れ、紅葉山の名のつく離宮苑内へと入ってゆく。
御幸道
そこに、松琴亭茶室へ招ぜられる客の休処、細い皮付き丸太柱で茅葺寄棟を支える「外腰掛」がある。前面と向かって右側面が開放された造りで、左側面には砂雪隠が設けられている。
参観者でいっぱいの外腰掛
外腰掛前面には、自然石と切り石を組み合わせた「行の延段」が北へ向かって真っすぐに伸びている。手前には、石灯篭、枡形を組み合わせた蹲と勾玉型の自然石が配置され、その三つの造形を目で追った先に、一直線の延段が敷かれている。その企みは見事と言うしかない。ただ、わたしには、やや、技におぼれたしつこさが鼻についた。
石灯篭と枡形蹲と自然の勾玉石
行の延段(自然石と切り石で組まれている)
そこかしこに水抜きの穴が・・・
桂離宮の延段は、ここの「行の延段」に加え、笑意軒の前面の自然石のみで造られた「草の延段」、御車寄せの畳石の「真の延段」の三つ存在する。石畳の石組み一つにも、精神世界を表象する心憎い細工が施されていることには、感嘆せざるを得ない。
この「真・行・草」の延段は、修学院離宮の隣雲亭の、あの何気ない「一二三(ひふみ)石」が表わす「天台にいう『一心三観』の法門から、景色の実相をながめる嗜好に見えてくる。一二三石とは空観(くうがん)、仮観(けがん)、中観(ちゅうがん)で、この三つが一つの白いしっくいでつらなり一心のしっくいは、三観という三つのものの真の見方となり、広範な景色は、その実相をあらわしてくる」(曼殊院第39代門跡故山口光円師)、「空・仮・中」の世界と、その深みにおいてかなり異なるように思えるが、いかがであろうか。
外腰掛の前方には島津家から寄贈されたという蘇鉄の樹が植わっている。日本の美の極致と称される「桂離宮」の苑内で出会う最初の風景に、蘇鉄はいかにも不似合いと感じる。創建当時は貴重であったが故に蘇鉄が高貴な者の証であったとは言え、いつ見ても、この光景はどうもわたしの心にしっくりなじまない。
3. 松琴亭への小径
飛び石伝いに小暗がりを抜けると、小さな石橋と手前横手に「鼓の滝」が涼しげな水音を立てている。
松琴亭へつづく飛び石
鼓の滝
眼前が開け、松琴亭が見える
突端に灯篭が立つ州浜と天の橋立に見立てた石橋
そして、前面が開け、突端に灯篭を立てた州浜が広がり、さざ波がたつ池面へと視線がたどる。その先には天の橋立に見立てた石橋がかかり、ちょっと左に目を転じると「松琴亭」が一望できる。松琴亭には池沿いの飛び石の小径を踏みしめながら、ゆっくりと歩を進める。
松琴亭に架かる石橋(松琴亭側から)
松琴亭から今まで歩いてきた池畔の径と水景色
秋の松琴亭
参観者は外から見学
松琴亭へ架けられた見事な石橋の手前に、灯篭がさりげなく配されている。飛び石に注意を注ぎ過ぎると、見落としてしまうので、できるだけゆっくりと景色を愉しみながら、歩きたいものである。