聖地・“てら川”に根づいてきた“割烹まつおか”=京都グルメ(2014.5.27)
味と妙技と人の出逢いを演出する・割烹“まつおか” =京都の“割烹まつおか(2013.9.20)
2012年春の“割烹やました”=京都グルメ(2012.5.13)
京都市東山区松原通大和大路西入ル南側弓矢町25
075-531-0233
定休日:水曜日
“割烹まつおか”は2012年4月開店の初々しいお店である。木屋町通りにある大好きな“割烹やました”で揚げ方、焼き方を担当していた松岡英雄氏が独立し、始めたお店である。
場所は京阪本線祇園四条駅、要は歌舞伎の南座から徒歩で7分という便利な場所にある。ここはもともと老舗旅館炭屋の料理長を長年務めた寺川氏が営んでいた「御料理てら川」の場所で、お店自体も「てら川」の造作を基本的に活かした造りとなっている。
京都に特有の縦長の敷地を逆にうまく利用した、入口を入ってまずカウンター席7名、その奥に順に二つの座敷が列ぶ瀟洒で落ち着いた雰囲気の漂うお店である。
当夜はわれわれが最初の来店客であったが、カウンターにわれわれ以外に3名、座敷の方に6名の予約が入っていた。奥行きのある間取りのため、奥の座敷客の声は殆どと言ってよいほどに聴こえず、静かな雰囲気で寛いだ時間が過ごせた。
その“割烹まつおか”は板場に松岡さんが立ち、右奥の厨房に吉井君と若い女性が二人(板場にも出入りする)、外に今風の黒いカフェエプロンをかけた若い仲居さんが一人という四名体制で、切り盛りしている。
開業してまだ半年ということで、厨房の若い衆もまだまだ手際に料理人としての切れ味は見られぬ。だが一日でも早く技量を磨きあげたいとの強い思いが、松岡氏の指示に対し必死に耳を傾ける姿や見つめる瞳の輝きに十分滲み出て、若い人たちのそのひた向きな姿勢がこの若いお店の清涼感や清潔感のようなものを生み出しているのだと感じた。
そこでいよいよ当夜のお料理であるが、まずは先付けが目の前に表れて・・・・
それに箸をつけながら、今夜はどんな趣向で来るのかなと脳内に“美味渇望アドレナリン”が充満し始めたころ、「今日はアマテガレイがありますが・・・」との松岡君のひと言。
「それの薄造りでもしましょうか」と言われて、「えっ、それ、何?」と訊ねたところ、東京でいう真子(まこ)鰈のことだそうで、大分県の有名な城下(しろした)鰈と同じものだという。
白身魚大好き人間のわたしに松岡君は直球勝負で甘手鰈の薄造りを薦めてきた。
そうであれば否やも応もない。即決である。
薄造りと言いながら微妙に厚みをだした造りは、歯ごたえがしっかりし、噛めば白身の身内からほんのりと甘みが染みだしてくる。なるほど、甘手の鰈である、甘手とはよくもその名をつけたりと感心したところである。
次に水槽に目をやると、あぁ・・・、威勢のよい鱧がいるではないか・・・、ということで、大好きな鱧の炙りを頼んだ。
目の前で松岡君が矩形の長包丁で見事な鱧の骨切りを見せてくれたが、ジャリ、ジャリでもなくシャリ、シャリでもない骨が細かく刻まれる小気味よい旋律がまことに粋である。
その様子を見ていた家内が炙り以外に今夜は少し違った調理のものも頂いてみたいと要望したところ、半分は炙り、そして半分は鱧の柳川鍋というまぁ、手間のかかるいただき方をしてしまった。
今年最初の炙りはもちろんおいしかったが、柳川風は炙りのさっぱり味とはまた異なり、癖のある牛蒡や三つ葉や山椒の味が逆に鱧の味の淡白さを引き立て、新たな鱧の魅力に気づかされた。是非、これはお試しになる価値は十分あると確信した次第である。
少し、いや、かなりお腹が落ち着いたところで、松岡君が「ちょっと、これ食べて見てください」と差し出したのが、次なる逸品である。
ピンク色がかった大ぶりのお刺身が一切れ・・・
何と、鯖の刺身だというではないか。脂が乗っている。しかも身が引き締まっている。う〜ん、身持ち?がしっかりしているとでもいうのか・・・、それって意味が違うでしょ・・・左様になかなか表現に苦労するところだが、これって本日の当り籤(くじ)ってな感じの流石(さすが)の一品でした。
次いで食いしん坊夫婦が目をつけたのが、水槽の大ぶりの車海老でした。
あっさりと塩焼きででもどうですかと言うので、それをお願いした。串に刺すとまた大きいですね。
見事に焼き上がりました。松岡君もにっこりです。
肉厚の身はプリプリして、香ばしい塩焼きの上にレモン汁の香りが迸り、そりゃ、おいしかったです。
その後、写真を見ていたら、岩蛎も頼んでいました。
そして目の前に現れた小皿に小魚の佃煮が出て参りました。
名前を確かに教えてもらったのだが、老夫婦ともにもう始まったのか・・・名前が思い出せなくて・・・、珍味のお魚であったことは確かなのですが・・・。ごめんなさいね、松岡主人・・・
そうして鱧の肝が芋茎(ずいき)とともに出されたのには驚いた。
これまで鱧の肝など食べたことがなかったので、二人して大喜びで、欣喜雀躍、あっという間に胃袋に収まりました。
次なるが・・・、え〜っ・・・鱧の佃煮。当日は鱧料理のオンパレードでした。
これまた見事な味で、伏見は月桂冠の鳳麟(ほうりん)がすすむことすすむこと。日本酒には最高の添えです。
こうなると胃袋の箍(タガ)は物の見事にはずれ、最終コーナーへ向けて最後のダッシュ!!
そこであっさりと、小芋・蛸・白ずいき・南京など炊合せが出て参りました。
そしてゴールはもちろんお定まりの鯖鮨です。
最初の客として席についてから延々、3時間半。疾うにほかのお客さん方は退散し、気がつけば店内の客はわが夫婦ふたりだけ。
松岡君とのカウンター越しの会話が楽しくて、ついつい、と言おうか、いつものように長居をしてしまいました。
当年取って確か40歳の松岡君の新たな挑戦がこの“割烹まつおか”で始まった。店主もスタッフもみんな若い。初々しさが匂い立つ、清々しいお店である。
今後の絶えざる精進と健やかな発展をされんことを心より願うとともに、京都での新たな愉しみの場所を与えてくれた松岡君に衷心より感謝する次第である。