「Wカップ報道に見たNHK改革の実態」

 

 NHKは職員の経費流用など度重なる不祥事を発端に、受信料不払い件数が増加、NHKに対する経営体質改善が強く国民から求められてきた。

 

 そうしたなか、平成18年度の予算は、両院総務委員会の審議を経て3月末に国会を通過した。それを受けてNHKのHPに「NHK平成18年度収支予算と事業計画〔要約〕」が掲載されている。H18年度はNHKが再生へ向けて124日に発表した「NHK3か年経営計画――NHKの新生とデジタル時代の公共性の追求」の初年度にあたる。

 

 この再生への決意を国民に示した後も、今年4月に発覚したカラ出張事件など不祥事は一向に止む気配はない。識者を集めた経営委員会で議論され、纏め上げられた「3か年経営計画」。敢えて「新生」とまで、その副題に記した計画は一体何だったのかと、虚しくなり、沸々と怒りが込み上げてきたものだ。

 

 NHKの全職員は本当に「変革」をしよう、「自らの変身」を遂げようと決意しているのだろうか。日々のNHKの番組を見ていて、決してその兆候を認めることは出来ない。むしろ、能天気さに腹が立つだけである。

 

 メディア全体で、意図的に盛り上げたサッカーWカップも漸く閉幕した。その決勝戦(710日未明)の日の午後7時のニュースを見た。北朝鮮によるミサイル発射以降の国際情勢の緊迫、国連での制裁決議採択への外交努力といった国民の知りたい、そして知らせねばならぬ重要ニュースが目白押しの際に、なんとWカップの決勝戦の試合映像、仏・伊国民の悲喜こもごもの反応、ジダン選手のレッドカードによる一発退場のニュースに、多分、10分を超える時間が割かれていた。わたしは、正直、NHKの非常識さと、NHKは何をなすべきかが分かっていない、彼らは変革・変身をしようと必死に脳漿は(のうしょう)は絞っていないということを確信した。

 

 日本でのWカップ放映権120億円ともいわれ、その内、70億円を払ったといわれるNHKが、そのコスト回収にただならぬ意欲を見せるのは、馬鹿らしいけど仕方がないのだろうか。

 

 いや、そうではないはずである。

 

「H18年度の事業計画の要約」の「事業運営の重点事項」に「1.NHKだからできる放送に全力」という項目がある。その中に「視聴者のみなさまの関心の高い国際スポーツイベント放送の実施」という項目が入り込んでいる。

 

 わたしもスポーツ観戦は好きである。しかし、それはあくまで趣味としてである。事前にその金額を知っていたとしたら、国民は本当にそこまでの金を払って、たかだかボール蹴りのゲームに70億円もの放映権料を払うことを許しただろうか。巨額の資金を払ったことで、このイベントを盛り上げねばならぬと現場や編集責任者が、番組のなかでWカップ関連に重点を起きたい気持ちも分かる。不祥事以前に放映権契約は締結されていたのだろうから、これを今、責めるのは可愛そうではある。

 

しかし、それらは全て「時と場合」というものが大前提であり、世の常識である。北朝鮮の問題だけでなく、ニュースのプライオリティ(優先順位)、番組編成のあり方(何を国民に知らせねばならぬか)に、「NHK新生」の息吹や変化の兆候を認めることはできない。いや、体質を抜本的に変えようとするひたむきさが、全く伝わってこない。反対に、視聴者に媚びよう媚びようとする姿勢だけが、異様に伝わってくるだけである。

 

NHKは視聴率を気にする必要のない、他局と競争する必要のない唯一の放送局である。国民に知らせねばならぬ事実を忠実に知らせることこそ「使命」であるはずである。710日(月)の午後7時のニュース編成は、そうした「NHKの使命」とは遠い所にある報道姿勢ではなかったか。わたしには、その日のニュースを見ながら、経営者・職員一同が一丸となってNHKは「新生」するのだと必死にもがいているようには、これっぽちも見えてこなかった。

 

 北朝鮮のことは、何も必要以上に国民に危機意識を持たせる必要はない。冷静な報道姿勢が報道機関にも強く求められる。しかし、冷静な判断を国民ができるように日々のニュースでちゃんとした動きを的確に機動的に流してもらいたいのである。ジダンがMVPになるのもよい、退場するのも良い。だが、その放映時間よりは、北朝鮮、国連の動きについてより多い時間を割き、国民の冷静な判断に資する報道を今だからこそNHKはすべきであろう。

 

 Wカップの余韻は民放に任せれば事足りるのである。