神々のふるさと、対馬巡礼の旅 ―― 6(鴨居瀬の住吉神社・赤島)

神々のふるさと、対馬巡礼の旅 ―― 1

神々のふるさと、対馬巡礼の旅 ―― 2(和多都美神社)

神々のふるさと、対馬巡礼の旅 ―― 補足(参考・引用文献について)

 

 

 鳥居が水際に立つ鴨居瀬の住吉神社

 



 
赤島の鮮やかな群青色の海

 

 海幸・山幸物語の龍宮城(和多都美神社)を訪ねた後は、山幸彦(神武天皇の祖父)が帰って行った上国(ウハツクニ)ゆかりの海浜にある神社を訪ねることにする。鴨居瀬(カモイセ)の住吉神社である。鳥居が海に直接、面し、参道が海路となる形態は、先に見た仁位の和多都美神社をはじめ、浜久須の霹靂(ヘキレキ)神社、五根緒の曽祢崎(ソネザキ)神社など対馬に多く存在する。古くからの海の民の信仰を色濃く残している対馬ならではの特異な神社様式である。

 


境内の由緒説明


 

住吉神社拝殿

 


 
拝殿内部

 

 

拝殿より鳥居越しに鴨居瀬の入江を

 

鴨居瀬の住吉神社(美津島町鴨居瀬174)

    祭神:彦波●武鵜茅不合葺尊(ヒコナギサタケウガヤケフキアエズノミコト)(大帳・明細帳)三筒男命(住吉三神)(大小)

    社号:瀬戸紫住吉大明神/鴨瀬(カモゼノ)住吉神社(大小)/和多女御子神社(明細帳)

    「対馬州神社大帳178189年編纂)」は、その由緒に「鴨居瀬」の由来を説いている。即ち、「鴨居瀬村、一に鬘(カズラ)浦村という。一説に波●武尊(ナギサタケノミコト)を養ひ奉(タテマツリ)し處ゆえに、彦火火出見尊(山幸彦)の御歌に、「沖つ鳥 鴨著(ツ)く島に 我が率寝(イネ)し 妹(イモ)は忘らじ 世の尽(コトゴト)も」、是を以て今村の號として末世に傳ふと云う。」とあり、鴨居瀬の名が山幸彦の御歌に由来するとの説が、江戸の天明年間にあったことを伝えている。

また、「明細帳」は、「豊玉姫命の皇子を抱育し玉ひし古跡なり。」と記している。

    境内の案内には、

「本社ノ創建ハ橿原ノ朝ニシテ彦波●武鵜茅不合葺尊斎キ祀リテ津口和多女御子神社ト云ヒ彦火火出見命津島海宮ニ降ラセ給ヒ豊玉彦命ノ姫豊玉姫ヲ娶リ、海宮ニ住ヒ給ヒシコト、三年豊玉姫胎妊ノ身トナリ産室ヲ此ノ地柴瀬戸神浦ニ造ラシメ給ヒテ皇子彦波●武鵜茅不合葺尊(ヒコナギサタケ・ウガヤフキアエズノミコト)ノ御誕生御抱育シ玉ヒシ古跡ナリ神功皇后三韓御征伐ノ時、海神ヲ斎キ祀リ玉ヒシヨリ住吉神社ト云ヒシナリ。」とある。

 


 
拝殿内に飾られた神功皇后三韓征伐の絵馬(大正13年奉納)

 

さて、此の浜にかかわる神話の世界に戻ろう。

豊玉姫が山幸彦との間にできた子を出産するため海亀に乗ってやって来るシーンを「紀」は次のように記している。

 

【紀:神代下[第十段]一書第三 海幸・山幸説話と●●草葺不合尊(ウガヤフキアエズノミコト)の誕生

「『妾已(アレスデ)に有娠(ハラ)めり。天孫(アメミマ)の胤(ミコ)、豈(アニ)海中(ワタナカ)にして産みまつるべけむや。故(カレ)、産まむ時に、必ず君の処(ミモト)に就(マイ)でむ。如(モ)し我が為に屋を海辺(ウミヘタ)に造りて、相待ちたまはば、是所望(コレネガフトコロ)なり』とまをす。故、彦火火出見尊(ヒコホホデミノミコト)已(スデ)に郷(クニ)に遷り、即ち鵜(ウ)の羽を以(モ)ちて、葺きて産屋を為(ツク)りたまう。屋の甍未だ合(フ)き及(ア)へぬに、豊玉姫自ら大亀に馭(ノ)り、女弟(イモ)玉依姫を将(ヒキ)ゐ、海を光(テラ)し来到(キタ)る。」

 

水際に立つ鳥居、参道は潮路




この海を光らして大亀に乗り豊玉姫がやって来た(鴨居瀬) 

 

そして、出産時に八尋の和邇に戻っていたことを見られた豊玉姫がそれを恨みながら去ってゆく時に、山幸彦が「沖つ鳥 鴨著(ツ)く島に 我が率寝(ゐね)し 妹(イモ)は忘らじ、世の尽(コトゴト)も」という歌を詠んだと「紀」は記す。

 


 
鳥居より住吉橋を見る

 

豊玉姫と山幸彦の間に産まれた皇子は、『彦波●武鵜茅不合葺尊(ヒコナギサタケ・ウカヤフキアエズノミコト)』(注1)と名付けられた(注2)。豊玉姫が龍宮城へ戻って後、御子の顔かたちがたいそう端麗であることを伝え聞き、自らが地上に戻り養育したいと思ったが、道理にかなわぬことであったので、代わりに妹の玉依姫(注3)を地上に遣わし、育てさせた。鵜茅不合葺尊(ウガヤフキアエズノミコト)は成長の後、養母であり、叔母にあたる玉依姫を娶り、その間に神武天皇を儲けるのである。

 

(注1)産屋の屋根を鵜の羽で葺き終えぬうちに産まれた子という意味で、鵜茅不合葺尊(ウガヤフキアエズノミコト)と命名。神武天皇の父である

(注2)当時は母方が子供の名づけをするのが風習であった。

(注3)海神豊玉彦命の娘で、豊玉姫の妹。