北朝鮮は19日午後零時、朝鮮中央通信社(朝鮮中央テレビ)をはじめ党や軍関連のメディアを通じて、「金正日(キム・ジョンイル)総書記は17日午前830分、現地指導に行く途中、走行中の列車内で逝去された」と発表した。

そして朝鮮中央テレビはその公式発表の2時間前の午前10時から数度にわたり、「正午に特別放送がある」と異例の事前放送を繰り返していた。

これまで「特別放送」という表現で発表された内容は、1972年の“74共同声明(南北共同声明)”と、1994年の“金日成(キム・イルソン)主席死亡”という朝鮮半島情勢を大きく揺るがす報道となった2回のみである。

その放送直前に野田首相は、就任後初の街頭演説を行うべくJR新橋駅前へ向け官邸を出発、金総書記死亡の一報を受けて、急遽官邸へ取って返したという。

そうしたドタバタの中で午後1時過ぎに開催された安全保障会議には、事もあろうにわが国の国内治安維持の最高責任者である山岡賢次国家公安委員長兼拉致問題担当相が不在だったというではないか。

同相は栃木県警本部視察や専門学校の式典出席のため訪れていた宇都宮市からの帰京途中新幹線内で、安全保障会議招集の連絡を受けたという。会議室に到着したのは、首相からの指示が終了した午後110分で、山岡氏は個別に首相から指示を受けたとのこと。しかも、ご本人に“特別放送”があることすら会議招集連絡があるまで知らされていなかったというのでは、治安維持を本務とする警察組織の情報伝達のあり方、指揮命令系統に重大な欠陥があると指摘せざるを得ない。と同時に、山岡国家公安委員長兼拉致問題担当相自身の組織掌握力・ガバナンス能力に看過できぬ致命的問題があると言わざるを得ない。

野田首相はもちろん、山岡大臣さらには官邸および各省秘書官らの危機発生時の機動的対応力の欠如には言葉を失う。何とも目を覆いたくなる危機管理の実態である。

21日午前に開かれた自民党の外交・国防合同部会において、外務省が特別放送の約40分前の19日午前1123分に「特別放送が予告されている。金日成主席が死去した時と同じだ」と首相秘書官に伝えていたことを明らかにした。

さらに内閣情報調査室が19日午前108分に「正午から特別放送がある」とのニュースを官邸、関係省庁に配布。1039分には、過去の“特別放送”と“重大放送”の報道内容を記した一覧表を官邸の首相秘書官室に送付していたことも明らかになった。加えて、「特別放送があるとのニュースは秘書官が首相に報告したと聞いている」とも内調幹部は発言しているのである。

官邸ならびに野田首相は、“特別放送”の意味を理解したうえで、辻立ち説法に出掛け、山岡大臣の秘書官らは正午に特別放送があること自体を国家公安委員長へ伝えなかったことになる。

もうここまで来ると、民主党政権には国家運営という痺れるような重圧感が皮膚感覚において決定的に欠落しているのだと云うしかない。

本来は外務省や防衛省等の情報・諜報ルートで、北朝鮮の発表以前に公表された17日午前の金総書記死亡またはそれを憶測させる動きを掌握しているのが、本来の整備された危機管理体制であるのだろう。韓国においてもその事前諜報ができていなかったとして危機管理能力が問題視されている。


陸地において国境を接する韓国ですらそうであるから、平和ボケしたこの国にそこまでの対応を求めるのは酷だと残念ながら納得するとしても、少なくとも19日午前10時以降の対応は、迅速かつ緊張感を持った体制・意識で迎えるべきであった。

北朝鮮暴発、核兵器暴走という“重大危機”発生時に備えた万全の態勢を整えるべく政府の総力をあげ、奔走、尽力すべきであった。

然るに前述したような首尾である。

民主党という政権にこれ以上、この国家を任せるのは危険である。

鳩山内閣での普天間基地移設問題からの日米関係の毀損、菅内閣時の尖閣列島中国漁船領海侵犯問題処理の不手際、北方領土問題における怯懦な対露外交など民主党政権の外交能力はあまりに稚拙であり、“国家の独立”、“領土権”という外交の最低限の要諦すら理解できぬお粗末さである。

そして今回のこの能天気な危機管理の実態・・・

もう任せられない! 消費税率アップなどという政治課題など待っていられぬ。国家の安全保障という最もプリミティブな“政治の使命”において、その能力を問う総選挙を速やかに行なうべきである。

もう、民主党には任せられない、任せておいてはこの国はとんでもない地獄に堕ちてゆく。そう思ったのである。