東山区祇園東富永町 ☎ 075−561−2133
10:00−22:00・定休日 日曜日
春は花、夏は涼みに秋紅葉、冬は雪見ととりどりに四切れに分けて色も香も、たがえて忍ばす巧みのあんばい、先ず一切れを召しませば、いとし由縁の京情緒、舌に床しく風味する、そそる味覚に二切三切ついつい手を出すとりどり最中・・・
と、主人の口上がつづく甘泉堂は、細い路地の奥にある。
四条通りと花見小路角の“よ−じや”の隣りの“京都現代美術館”横の路地を北側に入ってゆく。
目印はその路地入口に掲げられる“京菓子司 甘泉堂”の看板である。
店構えはいたってこじんまり。
店内正面に京都出身の文人画家・富岡鉄斎揮毫の味わい深い書・“甘泉堂”の扁額が素っ気なく掛けられている。
そこに130年におよぶ当店の歴史が見て取れるが、雰囲気は老舗の京菓子司というより、下町のご近所にある肩の凝らぬ菓子屋といった風情である。
店内に入ってもよいのだろうが、硝子戸が開けられており、道ばたからショーケース越しに注文するというこれまた庶民的で威張っておらぬところが好ましい。
ショーケースには“とりどりもなか”の餡の説明がなされた見本も、まぁ、飾り気なく置かれている。 また、季節限定の“水ようかん”もあった。次のお客さんは、これを所望しておりました。 その“とりどりもなか”は注文してから餡を詰めてくれるので、手にするのに少々時間がかかる。皮のパリッとした食感を壊さぬための手間なのだという。 といっても、二個頼んでほんの2、3分程度の時間でしたが・・・。 ただ、この短い待ち時間が、温かな手作り感を顧客に伝えてくれる重要な要素であるとのちに思いついた。 帰京後、早速、“とりどりもなか”をいただく。 直径14cmほどの大きな最中です。 その最中が島津藩の家紋・丸十のように最中の皮に溝が刻まれ、四つに仕切られている。時計回りに右上から春・夏・秋・冬の意匠が焼き付けられている。 その四つの仕切り毎に、甘泉堂主人の「ここ許参らするとりどり最中をご覧じませ一つが四季の味がする・・・」との挨拶にあるように、春の大納言粒餡(小豆・砂糖・寒天)、夏の緑色の柚餡(手芒(テボ)豆・砂糖・寒天・柚子)。
今回、お目当ての“とりどりもなか”は、物資困窮の戦時下の昭和17年、京菓子作りの伝統を後世に残さんと時の京都府が砂糖などを特別配給、保護した“和菓子特殊銘柄18品”のひとつで、川端道喜の“ちまき”や亀末廣の“竹裡(ちくり)”などと並ぶまことに由緒正しき御菓子なのである。