蘆山寺薬医門・上京区寺町広小路上る
この前、蘆山寺を訪れたのは、二年前の6月12日であった。源氏庭いっぱいの桔梗を期待していたところ、一輪の花も咲いていず、落胆したものである。
此の度は6月26日。二週間遅いので、捲土重来を期しての再訪である。
が、当日は雨。梅雨だもんね、仕方はない。
蘆山寺の広縁に出て、源氏庭を見た。
うん?
目を凝らす・・・、咲いている。桔梗が咲いている。
でも、白い敷き砂利に緑色がすっくと立つが、紫色は少ない。
源氏雲文様に造られた杉苔の地が黴雨に濡れ、緑が浮き立つようで、ことのほか美しい。
観覧終了時を過ぎて、見学者もなくなった静謐のひと時・・・
翌日、新島襄旧宅の見学を終えて、昼食までに時間が残ったので、歩いて15分ほどにある蘆山寺を再訪することにした。
一日違えば桔梗の数も・・・、そして晴れた日差しのなかの桔梗も美しかろうと思ったのである。
ひと夜にして満開になろうはずはない。自然のごく自然な摂理である。
桔梗は贔屓目に見て三分咲き。
でも、梅雨の合間の日差しに源氏庭はやはり映える。
源氏物語絵巻の雲の意匠から名づいた“源氏雲”の文様にあしらわれた杉苔と白石のコントラストがこの庭の清楚さを際立たせる。
桔梗も日差しの関係だろうか、幾輪も咲かせる株もところどころに見える。
また、そこに数輪だけ小さい花をつける桔梗も、凛としたたたずまいで好もしい。
庭の南西に位置する“紫式部邸宅跡(考証した歴史学者・角田文衛)”と揮毫(言語学者・新村出)された石碑も桔梗のなかに馴染んで落ち着いている。
見学者もまばらなこの日。ひとり、黙然と、庭を眺める。
ここで、紫式部は源氏物語を千年前に執筆したのだ・・・
この地で、紫式部は娘の時代、結婚してからも過ごし、息をしていたのだ・・・
光源氏って、藤原道長・・・、源融・・・、なんて想いをめぐらす・・・
現代を紫式部が見て、なんと思い、そしてどのような男と女の物語を紡ぎだすのだろうか・・・
蘆山寺はひとり時間があるときに、夢想、妄想、空想にふけるときに訪ねるのが良いと感じたひと時であった。
蘆山寺の桔梗の満開は7月中旬あたりとのことである。