「0.5263」を大きく報じぬ大手メディアの報道姿勢(上)(2007.9.10)
「0.5263」を大きく報じぬ大手メディアの報道姿勢(下)(2007.9.12)
要は平成17年(調査対象年)、今から2年前、この日本という国は社会の格差という観点から見れば危険水域に入っていたことが判明したのである。そして、「ネットカフェ難民」という言葉に象徴されるように、今日現在もその状態は日々刻々と悪化している可能性が高いことをわれわれはよくわきまえておかねばならない。なぜなら、平成17年以降も小泉・安倍内閣による格差是正のための有効な具体的政策は打たれていないからである。
さらに重要なことは、こうした格差拡大といった民主主義の基本的あり方に関する調査結果に対する大手メディアの報道姿勢である。今回の報道は概して通り一遍の表層的なものにとどまっているように思えてならない。
その報道は「社会保障の給付や税金による所得再分配効果により、世帯間の所得の格差は縮小、ジニ係数は26.4%の改善をみた」とか「厚労省はジニ係数が上昇した理由の9割を所得格差の大きい高齢者や単身世帯が増えたためとしている」といった、当局の記者会見での発表をそのままなぞったような、政府の国会答弁のような報道を目にすると、「格差は拡大しているはずだ」という仮説に立った検証・チェックがなされぬままにニュースが垂れ流されてゆき、「格差は所得の再分配によって是正され、高齢者世帯が増加したことによる見掛け上、統計上の格差拡大の調査結果がでたのだ」と、誤った意識を国民に植え付けてしまうのではないのかと懸念してしまうのである。当局が意図したとまでは思いたくないが、その片棒を担ぐような垂れ流し報道を大手メディアが行っていることに、彼らは本気で「格差拡大」という社会問題に取り組む意識があるのだろうかと残念ながらその姿勢を疑わざるをえない。そして権力との距離感の保ち方に疑念を抱かざるをえないのである。
そのことは、51ページにおよぶ平成17年の「所得再分配調査報告書」を仔細に見ると、厚労省の説明が都合のよい部分をつまみだした説明になっていることがわかるからである。
今回の結果に関し厚労省は、「過去最高となったジニ係数『0.5263』は格差拡大の結果では?」とのもっともな疑問に対して、「(当初所得に含まれぬ公的年金収入が多く、当初所得がきわめて低い結果となる)高齢者世帯の増加と、世帯の構成人数の減少による影響が(クロス分析の結果)約9割(高齢世帯増加要因80%・世帯人数減少要因12%)」であり、見掛け上の拡大であると強調している。
また近時、問題化している若者を中心とした非正規雇用の増加の影響などは「詳しく分析できない」と冷淡とも言える説明に止まっている。さらに調査対象年は02年、05年であり、両方とも小泉内閣の時期だが、格差の拡大傾向はそれ以前にさかのぼるとして、小泉改革路線がジニ係数悪化の直接的原因ではないとも説明している。
そして報告書は「所得再分配によるジニ係数の改善度〔(当初所得ジニ係数−再分配所得ジニ係数)/当初所得ジニ係数〕は26.4%で過去最高になって」おり、「所得再分配によって所得の均等化が進んでいる」としている。その表現は、あたかも格差が縮まっているような錯覚を覚えさせてしまう。この報告書の中身を熟読し、その説明を聞けば、当局が牽強付会的説明を敢えて行なっているというのが、適切な感想であると思うのだが・・。
そこでまず事実をもう一度、確認してみる。05年の「当初所得ジニ係数」は「0.5263」、02年は「0.4983」である。次に「再分配所得(=当初所得−税金−社会保険料)ジニ係数」は05年が「0.3873」、02年が「0.3812」である。当初所得、再分配所得双方のジニ係数とも前回調査より上昇している、つまり所得の再分配を行なった後の数値においてすら格差は「着実に拡大」しているのである。
その事実を正面切って言わずして「ジニ係数の改善度は26.4%で過去最高」(そしてこのことは紛れもない事実ではあるが・・)と、あたかも格差が縮小しているような誤解を与える説明をしていることに、厚労省の姑息さを感じざるをえない。過去最高のジニ係数改善度であっても再分配後所得のジニ係数が過去最高の数値であったことは、「それだけ当初所得の格差が大きくなったということであり、社会保障給付等により所得の平等化を行なってもなお、再分配後所得の格差は残念ながら拡大した」ということなのである。これを「改善度は過去最高」になっていることを喧伝するのは、実態から国民の目をそらさせるまったくの筋違いの説明であり、またそれを鵜呑みにしたような報道は結果として国民に誤った意識を植え付ける片棒をメディアは担いでいることになる。