尖閣諸島問題について、オバマ大統領は2月の安倍首相との首脳会談では、「日米協力が地域の安定につながる」との見解にとどめ、日中双方に平和的解決を求める中立的な姿勢をみせていた。

ところが、シリアへの軍事介入を具体的に示唆してからの米国内はおろか英国をはじめとする国際世論は盛り上がりどころか、反対の声が高まり、オバマ政権の外交戦略は一挙に劣勢に立たされた。

そんななか、G20において、当初、見送りとされていた日米首脳会談が、「2日前の電話協議の後、米側から首脳会談をしたいとの提案があった」(菅義偉官房長官)ことから、急きょ、開催の運びとなり、尖閣諸島問題について次のオバマ大統領の発言がなされたのである。

「力による問題解決を目指すいかなる取り組みにも反対する」

これは、冒頭の2月首脳会談の「日米協力が地域の安定につながる」とのきわめて冷ややかな発言とは異なり、同盟国としてはある意味、当然の発言、肩入れをしてくれたものと評価してよい。

しかし、この首脳会談が米国側の要請で急きょ設営された経緯、日米首脳会談が予定されぬなかで日露首脳会談は実施されるという情勢、さらに、このオバマ発言を日本政府が一切、公表しなかったにも拘らず、ローズ大統領副補佐官が記者団に明らかにしたことを考えると、米国側の狙いは明らかである。

この発言が尖閣周辺への領海侵犯など中国側の挑発行為を牽制するもので、日本側が欣喜雀躍して公表したのであれば、それはこれまでの日米外交の力関係のなかで、頻繁に目にしてきた光景である。

しかし、今回の日本政府は尖閣について意見交換したことすら会談後の記者会見で明らかにしていなかったのである。

わが国に尖閣という飴を与え、率先、米国のシリア軍事介入に賛同の意を表させる。そんな見え透いた手に乗るべきではないのである。

攻撃に関する国連安保理の決議採択を除き、第三国が、議会承認があろうがなかろうが、紛争国へ自儘(じまま)に軍事介入をすること自体がそもそも許されることではない。

その原理原則を蔑(ないがし)ろにして、国際社会からの真の信頼は得られない。

今のところ、プーチン大統領との会談、オバマ大統領との会談においても、シリア情勢に関する安倍外交は周到な対応、受け答え、そして熟慮したメディア戦略をとっているものと評価してよい。

殊に米国が民主党(鳩山)政権以来、中国の外交大国としての急速な台頭とも相まって、わが国への冷淡な外交姿勢をとり続けるなかで、シリア問題で武力行使反対を鮮明にするロシアとの首脳会談を行なおうとした、この天秤外交が、これまで、意のままに日本を操れるとしてきた米国中枢の外交戦略に、蟻の一穴を穿(うが)つに相応の効果を引き出したことは、積極的評価に値する。

米国に、わが国の属国としての価値ではなく同盟国としての価値を認識させるには、“遠交近攻”は言い過ぎだが、米国が嫌がる国との接近、親密度のアップが外交戦略の要諦であることを、今回はよく示してくれたものとして、記憶にとどめておくべきである。

最後に、付け足しのようで恐縮だが、「米国のイラク攻撃を支持してはいけない」と、時の総理、小泉純一郎氏に進言した反骨の元外交官と自認する天木直人・外交評論家が、9月4日付の“YAHOOJAPAN ニュース”・「シリア情勢でぶれまくってオバマを失望させる安倍首相は小泉首相より劣る」で持論を展開されておられるが、この方、何だか言っておられること、信念がどうも首尾一貫していないようで、これまで持っていた外交のプロ?といったイメージは捨てた方がよいようだ。