わが国は明日未明に決定を見る2020年オリンピック開催都市に東京が選ばれるか否かに高い関心が寄せられている。


しかし、国際情勢に目を転じれば、オバマ米・大統領のシリアへの軍事介入へ向けた動きが風雲急を告げている。


中国・ロシアの反対により合意には至らなかったものの、この8月28日には英国が化学兵器使用を理由にシリアへの武力行使容認決議案を国連安全保障理事会へ提出した。それと平仄を合わせ、同日、オバマ大統領がテレビ局インタビューの中で、アサド政権側が化学兵器を使用したことの確証を得たとして軍事介入を示唆。


まさに中東に莫大な石油利権を有し、イスラエルの安全保障の堅持が国益にかなう米英両国による水も漏らさぬ国際政治の舞台における連携プレイであった。


しかし、今回はこれまでの湾岸戦争やイラク戦争に突き進んでいった様相とは、国際世論の反応は大きく異なっている。


まず、お膝下の英国議会であるが、安全保障委提議に対する反応は早く、翌日の下院において、即座に、シリアへの軍事介入容認動議を否決、英政府の短慮を戒め、武力行使の動きを強く牽制した。


それに危機感を覚えた米政府が米国議会を説得、承認をとる方向へと動き出した。

9月3日のケリー米国務長官は、米上院外交委員会の公聴会で、シリアのアサド政権が反体制派に対し化学兵器を使用した証拠が確認できたとして、米国による軍事介入の議会承認を得ようとつとめている。


そのなかで、ケリー長官はイラクの大量破壊兵器所有誤情報により軍事行動を決断した経緯を踏まえ、「今回は誤った情報に基づいて議会に採決を迫ることのないよう、証拠を慎重に確認してきた」と述べ、オバマ大統領が主張しているのは「米国が戦争を始めることではなく、アサド政権が持つ化学兵器使用の能力を抑え込むことだ」と陳述した。

であれば、米議会を説得する前に、武力行使へ猪突猛進するのでなく、もっと国連や中国、ロシアとの利害調整をギリギリまで行ない、非人道的兵器の使用廃止に向けた事態収拾に尽力すべきなのである。


シリアでの化学兵器使用疑惑を調べている国連調査団は8月末にシリアでの現地調査を終え、複数の研究機関が収集データを分析中であり、最終結果が出るのが9月の中旬から下旬にかかるとの見通しである。


そうした状況も踏まえ、欧州連合(EU)は9月6日からリトアニアのビリニュスで開いている外相会議で、シリアの化学兵器使用疑惑への対応につき、国連調査団の報告を待つべきだとの見解で一致した模様である。


シリアでの化学兵器の使用は、その使用者が体制側、反体制側を問わず、重大な国際法違反であることは言を俟たない。だからといって、非当事者の第三国が恣意的に割って入るように軍事介入することは、そもそも、国連憲章においては許されていない。


紛争国への軍事介入は国連安保理においての承認が大原則である。


ロシア、中国が反対し、安保理決議がされないなかでの武力行使は、まさにルール違反であり、米国やその同盟国の私益・利権擁護のゆえであるといってよい。


そんな状況のなか、わが国は、当然、米国から強力な圧力を受けることは確実である。既に、水面下ではTPPや尖閣諸島問題や北朝鮮問題などを材料とするさまざまな揺さぶりが掛けられてきていることは想像に難くない。


もちろん、直面する外交課題は、その単独事案のみを見るのでなく、現在抱える諸々の外交懸案、そして将来的課題等々を総合的に勘案し、最終的に自国の国益にプラスになるか否かで、その断を下すものと考える。


しかし、国際政治の大原則というものを捻じ曲げて、外交課題を判断するようなことがあってはならない。

今回のシリアへの武力介入がまさにそれである。


国連の調査結果もまだ出ていない。そして国連安全保障理事会での承認を取得することが難しいなか、日米安保の同盟国である米国が前懸かりになり圧力をかけてきているからと言って、米国の判断に賛同、後押しするようなことだけは断じてするべきではない。


これは独立国家としての筋を通す、国際社会に日本は米国の属国ではないのだと、今後の立ち位置を毅然とアピールする絶好の機会ととらえるべきである。


これまでわが国が米国の武力行使に異を唱えたことはない。

だからこそ、今回のシリアに対する米国主体の武力介入には、国連安保理の決議がない限り、断固、反対を表明すべきなのである。


そのことによって、わが国への国際社会からの視線も変化し、独立国としての扱いを、わずかの尊敬を、勝ち得る道程へと入ってゆけるのだと考える。