AP通信より「イラク高等法廷の判事は29日、元大統領サダム・フセインが遅くとも30日までに処刑されると語った」ことが、伝えられた。

 

一週間前に宮沢りえ、藤原達也主演の「ロープ」(NODA・MAP第12回公演 渋谷シアターコクーン)を観劇した。プロレスに題材を借りて人間のもつ暴力性や社会の熱狂のなかで暴力が過激化、果ては熱気と狂気の境も分からなくなり戦争へと向かっていく怖さが描かれていた。野田秀樹にしては非常にメッセージ性の強い仕上がりとなっていた。

 

前半のプロレスと日常性のなかに潜む暴力とのコメディータッチの掛け合いから劇の終盤に向けてテーマの重さが明らかになっていくにつれ、観客は心をわしづかみにされ舞台上の宮沢りえ演じる実況アナウンサーの迫真の演技に惹きつけられていく。そして満員の観客席は、笑い声はもちろん寂として声のない状態が30分間は続き、静かに幕が下りる。

 

世にコントロールの効く暴力と効かない暴力がもしあるとすれば、後者の代表が戦争であり、その究極の状況のなかで人間はエスカレートしてゆく狂気という日常をいつしか当たり前のように受け入れていく。

「ロープ」を観終わったあと、戦争というものが最初はゲーム感覚のようにしてささいな暴力のジャブから始まっていく怖さと、より過激で残虐なものを求めていく人間の業にむなしさを感じ、なぜか涙を止めることができなかった。

 

その後、時を経ずしてフセイン元大統領の処刑が行われるというニュースに触れ、イラクで今後さらに過激さを増し繰り返されていくであろうシーア派とスンニ派の凄惨な報復劇を思った。

「目には目を、歯には歯を」というあまりにも有名な言葉はハンムラビ法典196条にあるが、旧約聖書出エジプト記21章にも同じ文言がある。

そのどちらも意味するところはやったらやりかえすという「報復」の勧(すす)めではなく、「相手を害したときは損なったものと同じだけのもので償わねばならぬ」とする「償い」の教えなのだという。