新緑に映える美山荘(前編)

美山荘 蛍狩り

京都市左京区花背原地町375
電話番号:075-746-0231

 摘み草料理が一番美味しい時期である5月のゴールデンウィーク明け、学生時代の先輩ご夫妻と一緒に美山荘を訪れた。今回は桂離宮を拝観後に花脊(はなせ)へ向かうため周山街道経由の道行きとなった。

 

桂離宮4

桂離宮1周山街道

 

 

 

 

 

 

 

     桂離宮       桂離宮      周山街道      

 

 そのおかげで高雄から花脊の新緑のなかに自生の藤の花がたわわに垂れ下がっている様を目にできたことは、望外の喜びであった。腕周りほどもある藤の樹の蔦の太さと長さは、藤棚になじんでいる都会の人間には新鮮な驚きであった。そもそも自然が持つ逞しさが与える不作為の心象は、「人工美」を何倍にも超える感動を与えるものなのだと得心したものである。とくに桂離宮という人工的造形美の円熟の極致を堪能した直後であったことが、余計にその思いを強くさせたのかもしれない。

そして山気をふくんだ翠色のイオンで胸が一杯に満たされたころ、車が美山荘の母屋玄関前に横づけにされた。

 

美山荘母屋表札

美山荘から見る新緑

離れ入口

 

 

 

 

 

 

 

東大寺管主揮毫の表札   美山荘の新緑       離れ玄関

 

 ちょうど若女将が清流沿いに建つ「川の棟」と呼ぶ離れに向かっているところに鉢合わせた。無沙汰の挨拶を交わした。われわれは離れの「山椒の間」と「楓・岩つつじの間」に通された。お香の焚き染められた部屋でいつも通りにアケビ茶がふるまわれた。お香の匂いがほのかに漂う静寂のなかでアケビ茶を喫む。そのいつもながらの手順を踏むことで、「美山荘の小世界」に普段着の気持ちのまま入りこめるから不思議である。

 

山椒の間

山椒の間から月見台

床の間のウワミズ桜

 

 

 

 

 

 

 

                   

 山椒の間     山椒の間から月見台  ウワミズ桜

 

そして夕餉前に高野槙の湯船につかる。花脊の湧き水を薪で焚いたお湯は、一日中歩き続けた体躯の疲れをやわらかく揉みほぐしてくれる。

 

 夕餉の間は「楓・岩つつじ」をつかった。母屋での襖絵を目の保養にしながらの(と云っても、銘酒「弥栄鶴」を数献?いったころには目は回っているのだが・・・)宴も乙なものだが、離れで清流の音を聴きながらの夕餉もまた異なった趣があってよい。鞍馬山のさらに深山の宵闇が徐々に深まってゆくころ、美山荘の宴の儀式とも云える野趣にあふれる「栗箸」とともに「菜篭(さいかご)」が運ばれてきた。篭のなかには葵祭りの璽符(みしるし)である双葉葵が誂(あつら)えられ、旬の食材に加え、この季節(とき)にしかできぬ御もてなしを感じさせられたものである。

 

楓・岩つつじの間から月見台

菜篭おもて

野趣あふれる栗箸

 

 

 

 

 

 

                

 

楓・岩つつじの間   朱塗り盃と菜篭   曲った栗箸      

 

 この宵は賀茂御祖神社(下鴨神社)と賀茂別雷神社の例祭の5月15日の葵祭の前夜である。大女将にそれに縁(ゆかり)の床の間の掛け軸の説明を受けてから、朱塗りの盃でまず恒例の「弥栄鶴」をいただいた。花脊の夢のような夕餉の開宴である。

 

菜篭のなか、ふたば葵

葵祭の掛け軸

弥栄鶴

 

 

 

 

 

 

 

 

菜篭の中、双葉葵   葵祭縁の掛軸    銘酒 弥栄鶴

 

 今回の訪(おと)ないは摘み草料理の真髄の一端に触れるのが主目的である。好きなお酒はほどほどに、料理の写真もちゃ〜んと撮ってブログにアップすることを誓いやって来た。家内からも事前にその主旨をくれぐれも逸脱せぬようにと強いお達しが出ていた。

 

 美山荘の料理はその調理ひとつとっても手が込んでいるのは当然であるが、何といっても一つ一つの料理に御もてなしの心が籠(こも)っているのがうれしい。しかも御献立を見ていただくとわかるが、食材(特に当日は、摘み草)の種類も豊富である。このブログでは写真を活用、紹介することで、摘み草料理の粋と美山荘の御もてなしの心を少しでもお伝えできればと願っている。

 

中編に続く

 

 当主 中東久人氏のブログ「美山荘だより