太田誠一農水大臣は19日、事故米不正転売問題での「農水省の対応が食の安全に対する国民の不安を招いた」として、福田康夫首相に辞表を提出し、首相はこれを了承した。

 

次期臨時国会はこの辞任の5日後の24日に召集される予定である。そこで首班指名となるわけで、現内閣の閣僚はその日に辞表提出の手はずとなる。残りわずか5日を残しての大臣辞任である。

 

辞任理由が農水省の不適切な対応で国民の不安を招いた責任というが、在任期間が残り僅かと分かっている時期、しかも早急に事態の収束を図らねばならぬ時に、この理由での辞任は許されることではない。任期いっぱい、これまでの事件の経緯を知るはずの大臣が陣頭に立って必死に問題解決への努力を続けることこそ、大臣たる者としての務めではないのか。

 

現在、汚染米転売事件は事態収束どころか社会全般へその影響は拡大し、問題は拡散していると言ってよい。まさに問題は燎原の火の如く燃え広がって行っている。そうした最中に、対策責任者の要である人物(途中で野田聖子消費者問題担当大臣に替えられたが)の農水大臣が、問題解決の渦中から逃げ出すなどあってはならぬ話であり、まさに下の下の話である。

 

福田総理が了承したというが、太田大臣のこれまでの「人体に影響がないことは自信を持って申し上げられる。だからあんまりじたばた騒いでない」発言や農水省に対する指導監督に大きな問題があるとして、表向きは「任にあらず」、「業を煮やした」ということなのだろう。しかし福田総理の本音は、来たる総選挙のマイナス材料をこれ以上増やしたくないというのが、この人物の辞任申し出をすんなり受理した大きな理由であろう(実際は辞任勧告のようだが)。この改造内閣を「安心実現内閣」と名づけたのであれば、太田大臣をボロボロになるまで使い切り、国民のために内閣総辞職の日まで誠心誠意尽くすのが筋というものであり、国民に対する礼儀というものではないか。

 

また一方の太田大臣に至っては、もう任期も実質的にないに等しく、こんな面倒くさい問題からすたこらサッサと逃げ出せて清々したという本音が記者発表の表情から透けて見え、こんな人物が大臣だったのかと国民として情けない限りである。

 

次の政権は、「経世済民」をご政道のど真ん中に据えて、政治を司ってもらいたいものと心より願うものである。そして「政治家は言葉が命」という。太田農水大臣はこれまでも無神経で不適切な発言が多い。今度の辞任も食の安全が揺らぐなかでの「じたばた」発言であった。そもそもこの御仁には政治家に最も必要な「言葉の力」の意味がおわかりになっていないのではなかろうか。その意味では政治家であること自体が問題であると今回の辞任劇を見て思わざるをえなかったのだが、いかがであろうか。