奈良の若草山焼き観覧のついでにかねて気になっていた「信貴山絵巻」(朝護孫子寺蔵・奈良国立博物館寄託)を一目見たく、信貴山に一夜、宿をとった。
ご主人によれば「オーベルジュ柿本屋」は朝護孫子(チョウゴソンシ)寺の参詣者に対する茶店として明治時代に開業し、120年の歴史を誇るとのこと。もとはもう少し下の方にあったが、参道のルート変更により現在の場所へと転地してきたのだそうだ。
奈良のホテルといえば最近でこそポツポツ贅沢な宿ができているようであるが、評判の良い老舗の宿といえば「奈良ホテル」くらいしかないのだと思っていた。
ところが、信貴山中腹に建つ「オーベルジュ柿本屋」に泊まって、その認識を改めねばならぬこととなった。
部屋、料理、部屋からの景観、温泉、スタッフの応対・・・と、すべてに満足がいく老舗旅館であったのである。
われわれの部屋は3階の305号室、、2017年3月OPENの真新しい角部屋で、2台のセミダブルベッドを寄せて並べたハリウッドツインの部屋に、琉球畳の座敷がつづく「ZEKKEI パノラマ コーナービュー・プレミアムフロア」と銘打たれた、まさに絶景が愉しめる部屋であった。
北西の窓から信貴山山腹に伽藍配置された朝護孫子寺の威容が望める。
また、バルコニーに出ると奈良盆地はあいにく雲の下に隠れていたが、遠くに大和高原の山並みが望めた。
貸切状態の温泉で疲れた身体をほぐしたあとに、夕食は個室に分かれた2階の和ダイニング・「くにのまほろば」で摂った。
友人を入れた3人で当日の平群郡の神社巡りに花をさかせながら食事を愉しんだが、きれいに盛り付けも美しい、味付けも上品な料理に舌鼓をうった。
板長の創作料理にびっくりしたひと晩である。
朝、窓を開けると朝護孫子寺から朝の勤行の読経の声が谷を越えて耳に届いてくる。身も心も清々しくなる泊まってみたい宿である。