グルメ旅の二日目は京都の夏を味わうコースを選んだ。

京都の夏の風物詩である「床(ゆか・とこ)」をしゃぶりつくそうという魂胆である。

⓪貴船の川床
貴船の川床
そういえば、6月18日土曜日のNHK番組「ブラタモリ 京都・鴨川〜川をたどれば京都がわかる!?〜」で野口葵衣アナウンサーが京都の水の考え尽くされた利活用を「しゃぶりつくす」と表現した際、「一滴残らず」という方が適切かなとタモリさんがやんわりと指導していたっけ。

‐絏賁仗声辧〔誠誓遒噺翳忌川の合流点
ブラタモリ・上賀茂神社の明神川と御物忌川の合流点
さすが「言葉の力」で人生を切り拓いてきた人物の言葉へのこだわりと日本語に向き合う真摯な姿勢に感じ入ったところだ。

余談はこれぐらいにして、当日はまず京の奥座敷・貴船(きぶね)の川床(かわどこ)で昼食をとり、夜は鴨川の納涼床(のうりょうゆか)で夕食という、「床」づくしの企画である。

ヽ川の納涼床がはじまる
鴨川の納涼床
まず出町柳から叡山電鉄鞍馬線に乗って貴船口(きぶねぐち)まで目にやさしい新緑を愛でながら30分弱。

ゝ船口駅
貴船口駅
駅前に川床を予約していた料理旅館「喜らく」の車が出迎えてくれた。貴船神社本宮前の「喜らく」まで2KM、5分の距離だが、脚に不安がある方は送迎をお願いするとよい。

ヾ遒蕕
貴船神社総本宮前の喜らく
昼食の予約時間までの1時間を利用して本宮から貴船川上流沿いに800Mほどいった先に鎮まる奥宮を参拝した。

ゝ船神社・奥宮
貴船神社・奥宮
海神・豊玉彦の娘で、神武天皇の皇母でもある玉依姫が淀川を遡上、鴨川の水源地であるこの奥宮の地に祠を造り都の水守りとして鎮まったとの伝説が貴船神社に伝わっている。

その時、坐乗してきた黄色い船(貴船の名の由来ともいわれている)を積み石で囲み匿(かく)したものと伝わる「舟形石(ふながたいわ)」が奥宮の脇にある。

―形石
舟形石
その傍らには朝廷の飲料水の管理をつかさどる主水部(もひとりべ)であった鴨族の祖神である味鉏高彦根命(あじすきたかねひこ)、別名、迦毛(かも)大神を祀る末社・吸葛(すいかずら)社が玉依姫の守人のごとく鎮座している。

)社・吸葛社(味鉏高彦根命)と船形石
舟形石のそばに吸葛神社
貴船山と鞍馬山に挟まれた渓谷に位置する貴船神社・奥宮の後背には鬱蒼と木々が繁っている。

その古木の所々に人形(ひとがた)に五寸釘を打ちこんだ痕が今でも残っているとかつて誰かがわたしに囁いた。この奥深い森には幾多の女が丑の刻参りを重ね、心変わりした男と新たな女を呪詛する風習が残っていたのだという。

能の演目・「鉄輪(かなわ)」は夫に捨てられ嫉妬に狂った女が貴船神社に丑の刻参りを重ね鬼に変貌、夫と後妻を襲うという禍々しい人の業を描いたものである。

2009.10.14 厳島神社・観月能
厳島神社・観月能 鬼に変じた女
この譚(はなし)には陰陽師・安倍晴明が登場し、その鬼女を追い払い二人を救うところで終わる。

ところがこの女、「まずこの度は帰るべし」と再度の襲来を予告し恨みを深く心に秘めたまま、一旦、身を匿(かく)しただけで、安倍晴明をもってしても止めは刺させなかったというものである。女の情念のすさまじさに背筋の凍る思いがし、その怨みはいまなお四条河原町あたりをうろついているのである。

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晴明神社の安倍晴明像 

そんな怪異譚の一方で、貴船神社はいまや恋人の聖地のようにいわれている。

奥宮への途中にある結社(ゆいのやしろ)のご祭神・磐長姫命が縁結びの神という。

〃觴
結の社
多くのカップルがその小さな祠の前で仲良く手を合わせている姿は印象的である。

恋多きスキャンダラスな女流歌人・和泉式部が、再婚した夫・藤原保昌の愛を失い、貴船神社で密教の秘儀・敬愛の祭りを執行、女性のたしなみを失わなかったことで、撚りを戻した? もとい、愛を取り戻したとの話が鎌倉時代の仏教説話集の「沙石(しゃせき)集」に載っている。

]太式部・歌碑
結社に建つ和泉式部の歌碑
平安時代から「貴布禰」神社が男女の愛を叶えさせるパワースポットだと信じられていたことをしめす譚である。

ゝ船神社総本宮
貴船神社・総本宮
また、総本宮では湧き水のご神水で水占いをするカップルが列をなす。
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貴船神社の水占い
清冽な貴布禰の渓谷には恋のキューピッドとともに、安倍晴明の神通力をも打ち返す嫉妬に狂う鬼女が夜の闇の底に潜んでいるということなどつゆも知らぬ若人たちに、老婆心ならぬ老爺心で「人間の業の闇は深いよ」とつい、耳打ちしたくなった。


そんな愚かで意地悪な白昼夢を見せてくれた貴船でいよいよランチである。いや、昼餉の時間である。

本宮前に店を構える「喜らく」に川床(かわどこ)の予約をとっていた。

ヾ遒蕕の川床
喜らくの川床
当日はまだ川床が設営されて間もないこともあり、涼風というより寒さが克つのではと、料理は湯豆腐コースを頼んでおいた。

川床の下を貴船川の清流が勢いよく流れている。

[辰笋な喜らくの川床
川床の下を清流が流れる
川筋を吹き抜ける山気ととどろく水音はコロナで鬱屈した気鬱病を一気に吹き飛ばしてくれる。しかし、さわやかというよりかなり肌寒い。

そんななかでいよいよ川床料理をいただくことに。

京の夏の定番、鱧の湯引きとお造り。

£腓療魄き・お造り
鱧の湯引きとお造り
鮎の塩焼き。

^召留焼き 喜らく
鮎の塩焼き 一人分ではありません
鮎の天ぷらまでも出てくる。

ヾ遒蕕の湯豆腐コース
お待ちかねの湯豆腐
そしていよいよ温かい湯豆腐の登場。このころには皆、早く暖をとりたい気分が横溢。

急ぎ小椀に湯豆腐をとりわけ、ようやく身体も心の中もほかほかと緩んでくる。

5月の中旬、湯豆腐料理。京の奥座敷では大正解との皆さんにお褒めをいただいた。

以前7月に細君と貴船を訪れた際には、老舗の「ひろや」で川床料理をたのしんだ。

⓪ひろや川床料理
ひろやの川床
その時、氷をアレンジした器で涼を演出した料理にはビックリ。暑さも吹き飛んだ。

涼をさそう氷器に盛られたお造り ひろや
氷器のお造り
そしていかにも涼感をさそう洒落た鮎の塩焼きも供された。

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盛り付けが美しい鮎の塩焼き
夏本番にお昼からしっかりとした懐石料理を所望したいと思われる方は、「ひろや」の川床料理はお薦めである。

 

こうして風流な川床料理に舌鼓を打ち、一方でいつの世も変わらぬ男と女の情景に思いを馳せた貴船神社・・・

ゝ船神社・本宮石段
貴船神社本宮の石段
作家水上勉は短編小説「貴船川」のなかで「貴船は女の執念を考えさせる神社」であると書いた・・・そんな貴船を、夜の鴨川納涼床にそなえて、食慾という煩悩に病む一行は早めに退散することとあいなった。