コロナ禍のなか六年ごと(寅・申の干支)に実施される諏訪大社の御柱祭を幸いにもこの5月4日、観覧することができた。

2022.5.4 前宮御柱祭
前宮一の鳥居
諏訪大社上社の本宮・前宮に建てられる八本の御柱は、四月上旬に八ケ岳麓の八ケ岳農場下に設けられた綱置き場から曳き出され、天竜川水系に属す宮川を越えて御柱屋敷まで曳行される。

その一連の神事を“山出し”というが、此度はコロナ対応ということで人の手によるのではなく、トレーラーによって御柱屋敷まで運び出された。

その為、御柱祭の華といわれる斜度27度の木落し坂の“木落し”や“宮川の川越し”といった豪壮な行事は残念なことに省略された。

2010年諏訪大社上社の木落し
2010.4.4 諏訪大社御柱祭 木落し - コピー
5月上旬、ちょうどGW期間に催される御柱屋敷から本宮・前宮への“里曳き”も、車による移動と思っていた。

2016.5.3 本宮四之御柱 里引き
2016年上社本宮四之御柱 里曳き
ところが、“里曳き”、“建て御柱”は従来通り人手により執り行われるとの情報が耳に入ったので、急遽、御柱里曳の観覧となった。

2010.5.3 諏訪大社上社 里曳き 桟敷より
2010年上社里曳きを桟敷より観覧
5月上旬にわれわれ夫婦にジョインした娘と息子家族総勢6人での参加である。参加といっても氏子ではないので、当然、氏子たちが“めどでこ”に跨り、木遣りの唄に合わせ“黄色い”おんべ“の房を振り乱す祭りの熱気を感じ取ることしかできないのだが。

2022.5.4 前宮二之御柱 二の鳥居の最後の石段に挑む
2022年前宮二之御柱 里曳き
ということで里曳きは5月4日、前宮にて観覧することになった。

これまで本宮がもっぱらであったが、此度は守屋山中腹に鎮座する前宮への里曳きである。

前宮は本宮とは異なり、一の鳥居から社殿まではほぼ一直線の上り坂になっている。

特に二の鳥居を抜け、社殿境内に這入るにはさらに勾配はきつくなり、しかも石段を登りきるという力業となる。


初めて観覧する前宮境内への勇壮このうえない曳き込みである。耳に突き刺さる木遣りの唄や進撃ラッパが鳴り響くなか、氏子たちの掛け声、総指揮者のがなり声、その狂乱と迸る熱気はまさに“祭”の醍醐味であった。

氏子が振り絞る「ヨイサ!」「ヨイサ!」の掛け声とともに、二の鳥居の急こう配の石段に挑む。

その様は1200年もの長きにわたり守られてきた原始信仰の荒々しくも幼児(おさなご)のような無垢の魂の雄叫びそのものであった。

御柱の先頭の“めどでこ”が社殿境内に駆け込み、後尾の“めどでこ”が天空へと跳ね上がったときにはなぜか目頭が熱くなった。

2022.5.4 後尾のメドデコが跳ね上がる

そして6年後の御柱祭にこうして家族と一緒に健康な体躯で参加できるだろうかと頭を過ぎった。

千二百年にわたり信仰という一筋に綯()われてきた縄の先っぽに触れることのできた貴重な一日であったなぁと、諏訪の神様に感謝したところであった。