いよいよこの日、継体天皇ゆかりの「越の国」、福井県へと入ってゆく走行予定距離118kmの旅である。

継体天皇石像
福井市足羽山公園に建つ継体天皇像
日本書紀の世界に没入してゆく前に、かつて自殺の名所というと必ずその名があがった東尋坊が道すがらにあるというので、怖いもの見たさというのもありちょっと立ち寄ることにした。

迫力の東尋坊
東尋坊
その東尋坊であるが、当ブログではお約束事となった感のある「私にとっては初めての場所だが、細君はもちろん半世紀前に訪れた馴染み?の地」だそうで、日本海に屹立する、われわれ夫婦が大好きな“柱状節理”の安山岩からなる懸崖だという。

|貍節理がよくわかる東尋坊に立つ謎の人物
柱状節理がくっきり見える東尋坊の絶壁 謎の人が立つ
さてそのアプローチなのだが、駐車場から絶望の断崖絶壁へと向かっていくはずなのに、どうも想像していたのとは様子が違う。

いかにも観光地然とした道幅の狭いお土産屋街を、店員が発する溌剌とした呼び込みの声を背後に聞きながら通り抜けていくのである。

,いにも観光地の土産屋を抜けると東尋坊_LI
これが絶望の果てに行きつく道・・・
季節が夏であればあたかも海水浴場へでも出向いているような遊興気分が身内にみなぎってきているではないか。

絶望と期待のはざまを振り子のように揺れ動く想いを胸に、漁の解禁をむかえ越前ガニがおいしそうにならぶ店頭を俗物的な横目でしっかりと確かめながら進んでゆくと・・・、

 ̄杼哀ニのならぶ店頭
越前ガニがならぶお店
あっ!と、一挙に視界が開けた。

‥攣魂阿途切れた先に東尋坊
土産屋の果ては、一挙に視界が開けた
陰々滅々とした険しい崖はこの下の方になるのだろうか、峻烈な景観が視界のなかには確認できない。

おそろしい情念の風景とは真逆の、のびやかで渺渺(びょうびょう)たる日本海を一望する見晴台がすぐ下にひろがっている。

仝晴らし台が整備された東尋坊_LI
東尋坊の見晴らし台
幅広の石段を下りると庭の飛び石のような化粧石を敷き詰めた広場には柵が廻らされていた。

高所恐怖症のわたしでも平常心でその突端に立つことができた。

‥貎卷傾馗蠍園碑と日本海
国定公園越前海岸・東尋坊
そこから舗装された石段や小径がいわゆる“こわ〜い”絶壁へと続いているのだが・・・

わたしは杖をしっかり衝きながら、慎重に・・・慎重に・・・足をはこんでいく。

途中で足元から目を海原の方に転じると、絶望の懸崖を目指す観光客の方々・・・なんと笑顔でおしゃべりしながら軽やかに歩をすすめているではないか。

〃崖へは安全な小道が整備されている_LI
整備された東尋坊の観光ルート
まるでランランとスキップでもしているような・・・

(慎い播貎卷靴両径を闊歩する人
断崖の横を闊歩する観光客
ところで細君は・・・と見回すと・・・あっ、無謀にも崖の突端とはいわぬが先っぽの方へと、人生の殺所を目指してゴツゴツとした岩場を突き進んでいるではないか。

‥貎卷靴寮茲辰櫃某佑いっぱい_LI
岩場をすすむ勇気ある女が一人・・・
命知らずと云おうか、能天気で浅はかな行動をと・・・舌打ちでもしたい気持にもなったが・・・その岩場の先に若者たちが屯(たむろ)し楽しげに談笑しているのを目にしては何をか云わんやである。

一歩、足を踏み外すと人生のシャッターは一瞬にしておりて漆黒の冥界へと真っ逆さまに落下してゆくのに、暢気なものである。

‥貎卷
東尋坊
そんな不条理な光景を目にして気持ちがざわついてきたのだろう・・・突如、「北陸の暗鬱な雲とくろい海」、「遥か下の方で海が鳴っている断崖」・・・

ヾ笋紡任蘇佞韻詛
東尋坊に打ち付ける日本海の荒波
わたしの想いは松本清張の推理小説の世界へと浮遊していった。

そしてわたしの脳裡にひとつのどす黒い想念がむくむくと浮かんできたのである・・・

「細君にはいくらの生命保険がかかっていたんだったっけ・・・」

そして・・・

「あぁ〜、高齢者になって付保額はガクッと減額されたのだった・・・」と、脳内で算盤をパチパチと弾いて無為の衝動は瞬時におさまった。

‥貎卷靴量燭療渡奪椒奪ス
自殺を思いとどまらせる「救いの電話」ボックスがあった
傑作「ゼロの焦点」の断崖絶壁は能登半島の「ヤセの断崖」が舞台だといわれているそうだが、東尋坊でわたしは小さくなってゆく細君の背中を目で追いながら、「ゼロの焦点」ならぬ「眼(まなこ)の焦点」がなかなか合わず見にくくなったものだと自嘲したものだ。

‘本海の水平線
日本海の水平線が見事
すると一陣の潮風が断崖に吹き渡り、どす黒い企みはきれいさっぱりと吹き飛ばされていった。

鬱陶しいマスクを外してみたことで、二年にわたるマスク生活で澱んでしまった脳内に大海原からの清新な風が吹き込んできたことが幸いしたに違いない。

‐紊ら見ると何の変哲もない柱状節理の海岸
東尋坊
わたしは杖を両手でつかみ思いっきり背伸びをし、深呼吸をしながら大空を仰いだ。

すると、空高くに一台のドローンが游泳しているのが目に入った。

‥貎卷靴防發ぶドローン
日本海を游泳するドローン
その自在、闊達な動きに見とれているうちに私たち夫婦がゆく北陸路には、清張の云う「暗鬱な雲」なんかでなくこの日のような「蒼天」が一番似合っているのだ・・・と思えてきた。

そして蒼穹に揺曳するドローンの映像のなかにはきっとこれまでのわれわれ老夫婦の人生が豆粒のようになって映り込んでいるに違いないと、思わず笑みがこぼれおちた。