紅葉狩りの京都、三日目は当初、真如堂を訪ねる予定であったが、タクシーの運転手が人込みを見るよりしずかに広縁にすわってモミジがゆっくり鑑賞できるお薦めのところがあるという。

大徳寺黄梅院の門内の紅葉
大徳寺黄梅院の前庭
秋の特別公開がされている大徳寺の黄梅院のモミジが見事だというのである。写真撮影は禁止だが、すばらしいところなので、ぜひ、行くべしと云うではないか。そこで車は急遽、方向転換、紫野の大徳寺へと向かった。

大徳寺総門   大徳寺 境内図
大徳寺の総門          大徳寺境内図
大徳寺の総門へ着くと、入ってすぐに黄梅院があった。織田信長、豊臣秀吉、小早川隆景、蒲生氏郷、千利休といった戦国時代の錚々たる人物ゆかりの塔頭だという。
大徳寺黄梅院
黄梅院塔頭の山門
撮影禁止のため門内の一区画のみの写真にとどまるが、
大徳寺黄梅院 秋の特別公開
モスグリーンの苔を這わした前庭の頭上に錦のモミジが織りなす景観を目にしただけで境内の紅葉の華やかさを想像させて心は躍った。

大徳寺黄梅院 梵鐘にもみじ
黄梅院前庭 梵鐘ともみじ
千利休の造営とされる、野趣あふれた“直中庭”(じきちゅうてい)をぬけて方丈の広縁へ向かう。そこに広がる「破頭庭」をめぐる築地塀の外側、西方に楓の巨木がそびえたっている。わたしたちは誰もいない広縁に腰を落とし、日向ぼっこをしながらその豊穣の葉叢が織りなす紅や黄のもみじのグラデーションを心ゆくまで愉しんだ。

秋天にもみじ 大徳寺黄梅院
秋天の青に紅色 黄梅院前庭
吹きわたる風のそよぎと秋の陽光のいたずらで、真っ青な秋空を背景に黄金色と紅色(くれないいろ)の小世界はめまぐるしく映像をコマおくりして観る者の目を飽きさせることがなかった。これはいくら言葉を尽くしても、観るに如かずとしかいいようのないアートである。

庫裡と紅葉 大徳寺黄梅院
黄梅院庫裡を覆うモミジ
さてこの絢爛の色モミジを鑑賞したあと、同じく特別公開中の近くの興臨院へと向かう。
大徳寺興臨院 秋の特別公開
大徳寺・興臨院 秋の特別公開
こちらは写真撮影可ということで、腕を撫して院内へ足を踏み入れた。
大徳寺興臨院 門内前庭
興臨院門内前庭
こちらも特別公開するだけあって見事な紅葉である。方丈前の枯山水は簡素で楓の木も庭の片隅にひっそりとたたずんでいる。白と紅と青の世界が清々しい。

興臨院 中根金作修復の枯山水庭園
方丈の南に枯山水の白沙の庭
ところが方丈の北側へ回廊を回り込むと、一転、南庭の画然たる色合いとは異なり、紅や黄色に緑の水彩絵の具を刷いたようで、その綾なす色模様に一瞬にして魅入られる。
大徳寺興臨院 モミジ
方丈北庭の陰翳
秋の光芒は南庭に雪崩れるようにして注ぎこみ、白沙の乱反射に双眸を細める。
興臨院 南庭
ところが一旦方丈の北庭へ廻り込むや、一面、苔色の地衣類に覆われた湿潤な土壌に楓の木々が枝葉をのばす。大きな軒先に遮られた秋の日差しは、ひかえめな陰影を随えて色モミジを照らす。
秋の風情 興臨院北庭
秋天のもとの溌剌とした色もみじとは一味違う、しっとりとした秋の風情である。