美山荘の蛍狩り(2006.7.5)
京料理・「粟田(あわた)山荘」で「蛍の夕べ」を愉しむ(2011.7.1)
東京の「ほたる狩り」=うかい鳥山(八王子)6月3日〜7月13日(2010.5.29)

長野県辰野町上平出1006-1


ゲンジボタルの群生では東日本随一と言われている信州は辰野町の“ほたる祭り”に出掛け、“蛍狩り”を思う存分愉しんだ。


辰野ほたる祭りポスター

今年で第64回目というのだから、戦後すぐの昭和23年に第一回目が開かれたことになる。さらに戦前もほたる祭りは催されていたということで、正確には戦後復活してから今年が第64回目に当るということらしい。


また平成9年からは、祭りの期間中、その会場である“松尾峡・ほたる童謡公園”で20時〜21時の間に発生したホタルの数を集計している。辰野町の公式ホームページにその集計表が掲載され、日々、更新されている。


その目視調査に携わっているのは辰野町の人々であるが、当番制となっているため、急にホタルの発生数が増えた台風の翌日(20日)など、人手が足りずに確認漏れが相当数あったとのこと。


ただ、バードウォッチング(bird watching)ならぬホタルウォッチング(firefly watching)って、あの暗いなかでどうやって正確に数えているのかは、う〜ん、正直、まだ分からない。


因みにわたしどもが訪れた625日は5,286匹の発生であったが、翌日は4,088匹と徐々にピークアウトしていた時期に当る。祭り最終日の71日は僅かに649匹となり、今年の最盛期は台風一過の20日の11,168匹ということになる。


さて、そんな細かい数字などどうでもよいのであって、当日の情景をお話しなければならぬ。


当日は朝から天気もよかったので、「今日はホタルもたくさん発生するぞ」と期待に胸膨らませたのは言うまでもない。

第一駐車場前に建つ”ほたる童謡公園の碑”

ほたる祭り会場の“ほたる童謡公園”には6時前に到着した。ホタルが出て来るのが745分頃ということだったので、2時間前に会場に到着したことになる。その御蔭で、足の悪いわたしには会場至近の第一駐車場に車が置け、わたしの全体力を心置きなく蛍狩りに注ぎ込むことができた。


第一駐車場はそもそもが“ほたる童謡公園”専用の駐車場で、公園への入口となる“わらべ橋”のたもとにある。



天竜川にかかる”わらべ橋”

橋上より天竜川を見る

諏訪湖を源流とする天竜川に架かる“わらべ橋”を渡り公園中心部へと入ってゆくと、直に公園が一望できる開放的な場所へ出た。

ほたる童謡公園の中心部へ
ほたる童謡公園中心部へゆく道

目の前に広がる光景は回遊路を設けた一面の草むらであるが、よくよく見ると水路といおうか小川が縦横に張り巡らされ、里山の豊富な沢水がそこへ流れ込むように設計されており、ホタルの棲息に適した環境が整備されていた。“ほたる童謡公園”という名が表わしているように、かなり人工的な臭いがするのは致し方のないところか。 


この水路群に蛍が棲息している
公園内にめぐらされた水路が見える
ほたる童謡公園
ほたる童謡公園全貌
ほたる童謡公園全貌

そしてわれわれは暗くなって見知らぬ道を歩くのも危なっかしいので、一応、事前に公園内を探索して歩いた。


カメラセット完了
ベストポイントで待つアマチュア・カメラマン

するとまだホタルが出るまで2時間もあるというのに、おそらくベストポジションと思われるポイントにカメラを据え付けた三脚を立てたアマチュア・カメラマンの姿がそこここに認められた。


カメラ準備万端
あとはホタルを待つだけ・準備万端

皆さん、立派なカメラをお持ちで周到に事前調査も済ませたのだろう、のんびりと同好の士としての会話など楽しんでいる様子であった。こちらの単機能デジカメでは蛍の曳光など写せぬことは承知していたものの、ちょっと彼らが羨ましい気がした。


また園内にはさり気なくホタルブクロの花も咲いており、蛍狩りへの期待は弥(いや)が上にも昂まって来る。


ホタルブクロがたくさん
ホタルブクロがさりげなく咲いていた
赤紫のホタルブクロ

関東では珍しい白いホタルブクロ

そして回遊路の所々に設置されたベンチに腰かけて待つこと1時間ほど経った720分頃、突然、家内が「あっ!飛んでる」と、右斜め上空を指差すではないか。


辰野町の日の入りは7時ちょっと過ぎであったが、上空一帯はまだまだ明るく、蛍の曳光を認めるなど到底無理だと思っていた矢先のことであった。


明るい大気のなかを一匹のホタルがハロゲンランプのような強い光を点滅させながらふらふらと飛行しているではないか。


周りにいつしか増えていた見物客も一斉に家内の指差す方向に目を投じ、「あっ、いる!」、「あっ、ホタル飛んでる」、「あそこ、あそこ」、「わ〜っ!」と弾むような声をそこかしこで挙げた。


ベンチに腰かけていた人たちも立ち上がり、回遊路の柵の前に立ち、まだ草むらや小川がはっきりと見えるなかホタルの小さく可愛らしい光を見つけんと、目を必死に凝らし始めた。


そして数分も立つとそこかしこで、「あっ、あそこ!」、「あの草むらに一匹」などと、園内にいくつもの声が響き出した。

ホタル飛ぶ
ホタルの曳光

なるほど745分頃になると急速に公園内は闇に包まれ、草むらに潜んでいたゲンジボタルが一挙に表に湧き出て来たかのように、あっちへ飛びこっちへ飛びと忙しく活動を開始した。


ホタルの曳光
薄く山影が見えるなか、ホタルが飛んでいる・・・、見えますか?

先程まで見ていた園内の無造作な草むらは、まるでこっそりとクリスマスのイルミネーションを装ったかのように、突如として一斉に光の競演の幕を開けたのである。


辰野町HP観光サイトより
辰野町HP・観光サイトより引用・ホタルの乱舞です

もうどっちを向いてもゲンジボタルの乱舞が目に入って来る。そしてまだ空中に飛び立たぬホタルも草むらの蔭でぼ〜っと蛍光の点滅を繰り返している。


ホタルの光が赤く写っています

偶然、闇に一点の光が写っています

わたしの写真はご覧いただいているように、一匹の光を偶然捉えた際にのみホタルの曳光が残っているものである。ただ画面に広がる闇の部分にこそ、実際には無数のホタルの光が点滅し、流れていたのである。カメラの限界か技量のなさか、誠に申し訳ない。皆さんの心の目を大きく見開いて闇の部分に目を凝らしていただきたい。



きっとホタルの幽玄な光のダンスの様が目蓋の内に浮かんでくるはずである。これらの写真の闇のなかに多くのホタルの光が埋もれ隠れ、潜んでいるのだから・・・



すーっと蛍が飛んでいる・・・

そうしてホタルの集団の乱舞を愉しんでいた時、一匹のホタルがふ〜らふ〜らとわれわれの上空へ寄り添って来た。


周りの人たちも「こっちおいで」とか、「ホ〜タル来い」とかそのホタルを自分の元へ呼び寄せようと声を掛けた。


すると、あろうことか家内が差し出した指先にそのホタルが止まってくれたではないか。それが次の写真である。もちろん場内はフラッシュ禁止なので、この程度が精一杯の映像なのだが、まぁ、幻想的?とでもご評価いただけると幸いである。


指に停まってくれたホタル
家内の指に蛍がとまってくれたのです・・・

そう言えば、ちょうど一年前に京都の“粟田山荘で蛍の夕べ”(2011.7.1)を愉しんだ際にも、一匹の蛍がわたしどもの部屋へ迷い込み、家内の肩先に停まったものだ。


京都粟田山荘で肩に停まる蛍
昨年の6月、京都の粟田山荘の”蛍の夕べ”にて

ホタルはそもそも女性好きなのか、それともわたしが蛍に嫌われているのか・・・。雅な世界にどうにも下らぬことを云って申し訳ないが、少々、気になるところではある。


まぁ、そんな些細なことはどうでもよい・・・、何せ十分に心ゆくまでホタルの幽玄の光の競演を愉しめたのだから・・・


そして天竜川に寄り添う辰野という小さな町は、実にホタルの似合うところであった。