あきる野市小中野167

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黒茶屋表門
黒茶屋表門

多摩川の支流である秋川の渓谷沿いに250年前の庄屋屋敷を活かした炭火焼・山里料理を供するお店がある。その名を“黒茶屋”という。

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水車を脇に配する中門

肌寒い日々がつづく今年の4月。一挙に24度を記録する晴天の日があった。啓蟄はとっくに過ぎたが、午前中の久しぶりの暖かさにこんな日は自宅を脱け出すに限ると秋川渓谷へとドライブに出かけた。

五日市街道
五日市街道を一路、黒茶屋へ

そしてお昼は家内お薦めの“黒茶屋”でいただこうということになった。と云うより、“黒茶屋”で食事をするついでに渓谷の春を愉しもうとしたという方が、わたしの気持ちに忠実な表現であろう。

黒茶屋の母屋へ
新緑の中を母屋へ

実は昨年8月末に秋川渓谷を訪ねた際に黒茶屋へは立ち寄っている。ただその時は時間が適わず、炭火焼処の“楽庵”で鮎の塩焼きを買い求め、隣接する茶房“糸屋”で午後の珈琲を呑むだけで帰って来たのである。

炭火焼の鮎を買った楽庵
茶房・糸屋
珈琲を喫んだ茶房・糸屋

そういうわけで、今度はまぁわたしにとって二年越しの恋というのも大袈裟ではあるが、ようやく念願の“黒茶屋”で食事をいただくことになったのである。

黒茶屋の母屋
黒茶屋の母屋

当日はお昼ということで“黒茶屋”名物の炭火焼料理は遠慮し、お昼のお手軽コース“ゆき笹”(3500円)を注文した。

黒茶屋の離れ
当日食事をした黒茶屋の離れ

山里料理と銘打っていただけあって、旬の筍やコシアブラや蕨などの山菜、山女魚(ヤマメ)といった深山、渓谷ならではの料理を堪能させてもらった。秋川渓谷の鮎は解禁前(解禁:62日)ということで、その日の魚は山女魚であった。

個室
当日通された個室
竹林の見える個室
竹林が見える風情あるお部屋でした
ゆき笹・献立
当日の献立(ゆき笹・3500円)

まず前菜が二段お重で運ばれてきたが、蓋上に山吹の花が添えられ、自然に抱かれた“黒茶屋”ならではの趣きあるお持て成しを感じた。

山吹飾りの前菜お重
山吹飾りの前菜お重・青竹の中に生酒”喜正”

早速に蓋を開け、お重を並べると、そこには深山幽谷の味覚が彩り鮮やかにひろがっていた。

前菜一之筐
前菜・一之筐
前菜二之筐
前菜・二之筐

この春を告げる昼餉の膳を目にしたわたしは、これはちゃんと御神酒と一緒にいただくべきお料理であると、迷わず五日市の地酒“喜正”(野崎酒造)を注文した。

緑鮮やかな竹筒の徳利とお猪口で、趣き豊かに生酒の“喜正”をいただく。お重の中のひと皿に箸をつけてはまた一献と・・・、いうもいわれぬ至福の時・・・である。

向付・鱒と蒟蒻の刺身

生山葵(わさび)をきかせ蒟蒻(こんにゃく)の刺身をいただく。たった二切れだから、これがよい。山葵の花芽のサビが蒟蒻に合う。そして、これがまた冷えた生酒によくマッチするのである。口のなかにす〜っと爽快感が広がり見事である。

黒茶屋名物・勾玉豆腐

それから前菜で特筆すべきは“黒茶屋”名物の“勾玉(まがたま)豆腐”である。これは一度いただくと癖になりそうと表現するのが最も適切であろう。家内が以前にいただいた際にこの勾玉豆腐をいたく気に入り、わたしにも奨めたかったのだそうだ・・・。「そんならもっと早く、連れて来なさいよ」なんてひと言、嫌味も言いたくなろうってものですわなぁ・・・。


この勾玉豆腐は豆腐の様にして豆腐にあらず。と云うのも、カシューナッツをすりつぶしたパウダーと生クリームを混ぜたもので、大豆は一切使用していないというのだから、見かけは豆腐状でも豆腐ではないのである。


だから味も“寄せ豆腐”などよりもより濃厚でクリーミーなのは当然である。でもしつこくなく、上にかけられたジュレと馴染みがよく本当にお薦めの一品である。“勾玉”の名はもちろん上に飾られたカシューナッツの形に由来している。

百合根栂ノ尾煮桜風味

また“百合根栂尾煮桜風味”というのも、百合根をすりつぶした桜餅感覚の季節感たっぷりの一品で、味はちょっと甘めだがしつこくなくおいしかった。

きのこ汁
山女魚の唐揚

当日の魚料理は山女魚の唐揚げを求めた。1617cmほどの大きさであったが、頭からかぶりついたが骨もまったく気にならず完食。そこで口を開こうとしたわたしに向かい、家内がひと言。「揚げ方が上手ね。家ではこうはいかないのよね」と、こちらの心中を見透かしたようにピシャリとお断りの先手を打たれたものである。

筍の田舎煮

筍の田舎煮もさすがに旬。柔らかくて味も上品で、また山椒の味が効いておいしい。

じゃがいも大葉焼き・タラの芽・コシアブラの天ぷら

揚げ物はタラの芽はもちろんだが、コシアブラが旨いと感じた。仲居さんも、最近はコシアブラの方が好きというお客さんが増えたと云っていたので、タラの芽は最近どこでも出るので、みんな飽きが来ているということだろうか。


そんなこんなで、“黒茶屋”でのゆったりとしたお昼もおしまいとなった。

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縁側からは新緑のまぶしい竹林が・・・

そして縁側へ出て、春の陽射しが差し込む美しい新緑の竹林や若葉鮮やかな楓を観賞した。

黒茶屋の竹林

風の音だけが聴こえる静寂の渓谷・・・、新緑のこぼれる竹林のなかで心豊かな昼餉の時間を過ごすことが出来た。


その後、腹ごなしも兼ねて黒茶屋からの小道を下ると、ものの数分で秋川渓谷のなかでも景勝地として名高い岩瀬峡に至る。

岩瀬峡へ下る小道に山吹が咲き乱れる
岩瀬峡の清流
清流の流れる岩瀬峡

その澄みきった清流に一羽の鴨が水の流れに抗するように上流へ上流へと泳いでいた。

水流に抗い泳ぐ鴨一羽

自然のなかに身を置きながら、独り、黙々と、時に瀬に上り憩いながらも、また水流に抗うようにしてすすんでゆく姿になぜか目頭が熱くなった。やはりそれは年のせいなのだろうか・・・。

黒茶屋の前庭に三つ葉躑躅とまばゆい新緑が
中門脇にある豊富な流水で廻る水車

そんな感傷は別として、是非、一度、緑豊かな秋川渓谷へ足を運ばれ、水車の廻る“黒茶屋”で食事をされたらよい。この“黒茶屋”という世界にはほんとうにゆったりとした心落ち着く時が流れているのだから・・・。