老松の「花びら餅」―――旅人の見た京都の御菓子(京都グルメ)
右京区宇多野福王子町13-3(本店)
上京区北野天満宮鳥居前(北野店)
北野天満宮で梅を観賞した帰り一の鳥居を出てすぐ左、今出川通り沿いに“船屋秋月・北野店”はある。
同じく梅苑を散策しての帰りであろう、わたしのちょっと先を歩いていた老夫婦が立ち寄ったお店があった。硝子戸を開けて入る姿がお馴染さんとわかるほどにどこか自宅にでも入ってゆくかのように自然に見えたのである。
わたしもその様子に吊られてふっと立ち止り、看板を見あげた。 そこには“京菓子處船屋秋月”とあった。支店ということもあるのだろうか、店の造作に老松などの老舗の佇まいはなかったが、ちょっとショーウインドーを覗いて見ると餡子大好き人間の虫がうずいてしまったのである。 気づくとその老夫婦の後ろから、わたしもお連れのようにして店内へと足を踏み入れていた。 簡素な店内のショーウインドーに目を凝らし、わたしは“わらしべ長者”(第22回全国菓子大博覧会・名誉総裁賞)と当日の北野天満宮の美しい紅梅をあしらったような“北野梅林”(第21回全国菓子大博覧会・内閣総理大臣賞)を戴くことにした。仲睦まじい老夫婦が迷うことなく“わらしべ長者”を求めていたのを見ていたこともあったが、黄な粉のかかった“わらしべ長者”の何とも素朴なたたずまいが懐かしく、わたしも購入したのである。 “わらしべ長者”は、「大納言は殿中で抜刀しても切腹しないで済む」ところから、煮ても腹の割れない小豆ということで名づけられた“丹波大納言小豆”で造られた餡を薄く伸ばした餅粟生地ではさみ込み、そのうえを黄な粉でまぶした菓子である。 とても素朴な味で、でも餡子好きには丹波大納言の餡がみっちりとはさまったこの和菓子は、正直に実直に生きてゆくけば福は向うからやって来るという昔話の“わらしべ長者”のように、贅沢でもなく、奇をてらうでもなく、欲をかくでもなく手造りでひとつひとつ丁寧に造られた心温まる京のお菓子として皆さんにぜひお薦めしたい“旅人”がふと手に取った京都の味である。 また、北野天満宮の梅苑での観梅のお帰りにはぜひ、この可愛らしいお菓子、“北野梅林”も、おひとついかがでしょうか。北野の梅を想い出しながら、おいしく頂きました。