本店:平戸市木引田町431(按針の館)
桟橋店:平戸市崎方町825

「蔦屋総本家」は、150年前に制作されたスイーツの元祖レシピ本と云ってもよい「百菓乃図元本」(松浦家・第35代当主松浦熙(ヒロム)の命で作成)の後書きにもその名が認められるように、平戸藩松浦家の御用菓子の勤めを担ってきた老舗であるが、その歴史をたどると、創業は文亀二年(1502)と五百余年もの歴史を有する由緒ある菓子舗である。

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当日、立ち寄った「蔦屋総本家桟橋店」

そして現在も、肥前平戸藩の4代藩主となる松浦鎮信(松浦家29代)が興した武家茶道の一派である「鎮信(チンシン)流」の御茶請をこの蔦屋が提供しているという(初代平戸藩主も松浦鎮信というが、”鎮信流”を興したのは4代目の殿様の方である)。


献上菓子の石碑
店内に掲げられた「蔦屋」の由来書き

 当店の一押し人気商品の「カスドース」(日持ち14日間)は、ポルトガル船の来航の際に、カステラと一緒に伝わった南蛮菓子のひとつである。戦前までは松浦家の「お留め菓子」として藩侯の催す茶会の御茶請や献上品としてのみ限定的に製造されていた、いわば門外不出のスイーツであり、この「蔦屋」を代表する銘菓である。

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カスドース

 「カスドース」は「一口大に切り分けたカステラを溶いた卵黄にくぐらせ、熱した糖蜜に浮かべ、最後に砂糖をまぶす」と当店HPに製法が記されている通り、そのしっとりとした濃厚な甘さがスイ−ツ・オタクには堪らない。初めて口にした時、正直、その贅沢な甘さに驚いたものである。砂糖や卵がとんでもないほどの貴重品であった五百年前に、この平戸にこうしたスイーツがあったこと自体が奇跡と云ってよい。

カスドースの内側は白い

 人間の「食」に対する欲望は今も昔も変わらぬものなのだと思った。そして、五百年前には殿様しか食べられなかったスイーツが、こうして庶民のわたしの口にも入る、今の時代の幸せに改めて感謝した次第である。 

「百菓乃図」に掲載された菓子で、「牛蒡餅」と「烏羽玉(うばだま)」がある。当日は「カスドース」のほかにその二つを求めようとしたが、松浦史料館監修の下で再現された「烏羽玉」は、足が早い(日持ち3日間)ため午前中早くに売り切れとなったとかで、購入できなくて残念であった。「黒ゴマ入り練り餡を柔らかい求肥で包み讃岐三盆糖をまぶした(HP)」烏羽玉、食べてみたかった。

「牛蒡餅」(日持ち7日間)は「中国からの伝来と伝えられ、慶弔時の菓子として用いられその姿が牛蒡に似ていたことからその名がついた」と当店のHPで説明されている。モチッとした食感は・・・、うん、まさに餅だ。カスドースとは異なり、至極、あっさりとした淡白な味の菓子である。

白の牛蒡餅
茶色の牛蒡餅

 やはり、絶品は「カスドース」である。こうした菓子はこれまで口にした記憶がない。オンラインショップで購入できることになっているが、TVで紹介されたとかでここ数カ月は注文殺到のため常に「SOLD OUT」と表示されており、しばらく模様を観てから注文にこぎつけたいと考えている。

どうしてももう一度食べたい「カスドース」

 

しかし、五百年の歴史を有す老舗で「sold out」とは、やはり由緒ある南蛮菓子、スイーツの店舗の為せる洒落た技であると、妙に感心している。