もう28か月前になるが、JR福知山線脱線事故の航空・鉄道事故調査委員会は、遺族・被害者3名を含む13名を公述人とした意見聴取会(2007.2.1)を開催した。その中で公述人たる丸尾和明JR西日本副社長(当時)を初めとする経営陣の発言等を知り、「107人の命を奪ったJR西日本の原罪意識を問う!2007.2.21付)を記述した。そのなかで「JR西日本という企業は『自分が加害者である』という重大な原罪意識に欠けているのではないか」と企業体質を厳しく糾弾した。

 

 JR西日本は線区福知山線塚口駅―尼崎駅間において、2005425日午前918分頃、塚口駅を通過した直後の半径304mの右曲線を走行中に脱線、死者107名、負傷者562名という未曽有の大惨事を引き起こした。

 

 そうした大惨事であるにもかかわらず、事故原因の究明、事故に遭われた被害者のご遺族や当事者の方々への謝罪姿勢や補償問題等で、罪の重さを衷心から反省し、悔いているのか甚だ疑問に思うと、ブログのなかで同社の姿勢と企業体質を厳しく批判したのである。その批判こそ、現在、事前の働きかけ等で問題となっている公述人による意見聴取会の様子が伝えられたからのことである。その閉会後に被害者や遺族の方たちは、公述人たる丸尾副社長(20087月日本旅行社長就任)の意見陳述に対し、「企業防衛や自らの保身に終始した公述だ」と批判したことに如実に表れているが、JR西日本の大量交通機関としての使命感と責任に重大な欠陥があると強い憤りを覚えたのである。

 

 ここ連日、発覚しているJR西日本の山崎正夫前社長等による航空・鉄道事故調査委員会への情報漏洩・接待などの働きかけや兵庫県警や大阪地検による事情聴取社員への事前資料配布等の画策は、どう言い訳しようが、107名の尊い命を奪ったJR西日本という鉄道会社は事故直後からこれまで一貫して、旅客の命の重さより企業防衛に全力を挙げて来たと断ずるしかない。

 

 そして事故調査委員会側にも、事故当事者との公式の場以外での接触・情報漏洩など看過できぬ重大な不始末がある。それも旧国鉄時代に同僚であった人物たちが、加害者と、その事故原因の究明に当たる委員側にも入っているという考えられぬ委員構成であった事実もJRの監督官庁であり、委員会の当局でもある国土交通省の責任もきわめて大きく、なぜ、そうした人事を行なったかも今後、詳しく究明していかねばならない。

 

17日に兵庫県伊丹市で開かれた「おわびの会」で、佐々木隆之社長は「調査報告書に対する思いを裏切り、深く反省しています」と遺族らに謝罪したが、事故後に次々発覚する一連の画策の動きを見ると、とてもではないが言葉通りに受け取ることはできない。

会場で「誠心誠意と言いながら、裏切るようなことをしていた」、「JR西は組織と人の命のどちらが大事なのか」と被害者が激しい口調で詰め寄ったと言うが、関係者の怒りは想像を絶するものがあるに違いない。事故発生からすでに46か月が経過しているのである。

 

 JR西日本が掲げる「企業理念」には六項目ある。その第一項には「私たちは、お客様のかけがえのない尊い命をお預かりしている責任を自覚し、安全第一を積み重ね、お客様から安心、信頼していただける鉄道を築きあげます」とある。

また、第六項には「私たちは、法令の精神に則り、誠実かつ公正に行動するとともに、企業倫理の向上に努めることにより、地域、社会から信頼される企業となることを目指します」とある。企業理念はその企業の存在使命と価値を社会に対し約束するものである。その約束の少なくとも13は見事に反故にされたと言ってよい。

 

 そして、福知山線事故を踏まえて作成された5項目からなる「安全憲章」の前書きにある「お客様のかけがえのない尊い命をお預かりしている責任を自覚し、安全の確保こそ最大の使命であるとの決意」がまったく白々しい嘘八百であり、急場をしのぐお題目を経営陣が先頭になって作成させたものであると、断罪できる。場合によっては自己の「地位保全」のために、敢えて心にもない文章を作らせたのかもしれぬと、邪推したくなる。それほどに、このJR西日本の事故後の対応は、大量の命を預かる大量輸送機関としての企業適性が欠如していると判断せざるを得ない状況なのである。

 

 企業理念、安全憲章からすれば、当然のことであるが、なぜあのような大惨事を引き起こしたのか、技術的問題、企業体質の問題、組織の問題等、洗いざらい、真摯に見直しを行ない、その原因をなんとか究明し、今後の対応策と併せて、社会に対し公にすることで、今後の事故防止につなげることになるのではないのか。それでこそ、公共機関としての義務を果たすことになるのではなかったのかと、思うのである。

 

にも拘らず、今回、航空・鉄道事故調査委員会(後藤昇弘委員長)が公表した最終報告書(2007.6.28)の中立性に重大な疑念が生じたことになる。

 

前原国土交通大臣は928日に佐々木社長を呼び「前原国交相は佐々木社長に対し「今回の情報漏えいは、被害者の方々や国民への背信行為で言語道断。重く受け止めてもらい、再発防止に努めてもらいたい」と要請した。

 

事故後の同社の対応は107名にもおよぶ人命を一度ならず、二度奪ったのだと言ってもよく、私は、命を命とも思わぬこのJR西日本という企業の今後の対応に、厳しい監視の目と猜疑心の視線を注ぎ続けねばならぬと、強く思った次第である。