能・「融(とおる)」 六条河原院の縁の地を歩く 壱

友枝昭世の第13回厳島観月能「紅葉狩」の夜

能・発祥の地、新熊野神社(いまくまのじんじゃ)を訪ねた

国宝の北能舞台(西本願寺)を拝観しました!


水上能を堪能=観世流「融」


 パルテノン多摩・きらめきの池に特設された能舞台で水上能が催された。
5日午後5時半開演に合わせて、観客が雲の流れのはやい天上の舞台を目指してぞくぞくとパルテノンの大階段を上ってゆく。
 

開演前の空、雲が速い
雲の流れがはやい

パルテノン多摩の水上能へ向かう観客
       天上の舞台を目指す観客         

開演前能舞台
きらめきの池に設営された能舞台

 

開演に先立ち、観世流能楽師の河村晴久氏が能の見方をわかりやすく解説してくれた。観世流では橋懸りから見て脇柱方向が東の方角と見立てるという。したがって月が東に昇る仕草はその方向に目をやるのだそうだ。そして時間とともに月の位置が変わる様を、徐々に右手に目をやることによって表現するという。そして幕口の方向に月が隠れることになる。当日は野外舞台である。実際の方位は反対であり、「本日は、実際には幕口の方向に月が昇ります」と、観客の笑いを誘った。

 

開演前の観客席観客席
日も落ち開演を待つ観客席

 

当日の演目・演者は以下のとおり。 

 

仕舞:「野宮」 河村晴道  「天鼓」林喜右衛門


 狂言:「狐塚」 シテ/太郎冠者 茂山正邦 
         アド/次郎冠者 茂山童司 

  アド/主人 松本薫


   能
:「融 舞返」 前シテ/汐汲の翁・後シテ/源融の霊 
                        河村晴久

             ワキ/宝生欣哉

             アイ/松本薫

          
                     笛/藤田六郎兵衛 小鼓/大倉源次郎
                     大鼓/助川治

           

          地謡 河村浩太郎 味方團 河村和晃 
  林喜右衛門 田茂井廣道 河村和重

 

 まだ明るい夕方、多摩丘陵の高処にあるパルテノン多摩。周辺の木々の緑も濃い。ニイニイ蝉がかしましい。宵の気配が迫ってくる頃、ツクツクボウシの鳴き声がまざってきた。南の空に宵の明星がひとつ明るく輝く。まだ、自然の野外装置は夏模様である。 

いよいよ開演
いよいよ開演である

南の空に宵の明星能舞台と望月

南空に宵の明星が輝く(左)・舞台頭上に望月が昇る(右)

 


 

 狂言が始まってしばらくした頃、ふと気づくと蝉の鳴き声は舞台から去り、秋の虫が一斉に涼やかな鳴き声をあげていた。きらめき池に設けられた能舞台は秋一色に染め上げられてきた。

 

 20分の休憩をはさみ、いよいよ、「融」の舞台が始まった。汐汲みの翁が登場し、ここ荒れ果てた六条河原の院が塩釜の浦に似せ造園されたとの謂れを語る頃、わたしの正面に雲ひとつ見えぬ夜空に満月が木の梢越しに昇って来た。水上能のみでなく、観月能も堪能することとなったのである。

 

望月

みごとな望月、これは観月能でもあった・・・


水面に映る舞台と樹影
水面に映る能舞台と緑の樹影

 

能舞台頭上の満月
公演終了後の舞台

 

 3時間におよぶ水上能。自然の季節感を実感しながら、河村晴久氏の早舞いと亀井広忠氏の打つ大鼓のカーンという音、裂帛の気合はまさにこの夜の圧巻であった。わたしはいつしか舞台に引き摺りこまれていた。晩夏と初秋のはざまのひと夜、蝉の声、コオロギの声、宵の明星、満月・・・、多摩丘陵で過ごした最高の夜でした。