福田新総理の気になるひと言=メディアへの秋波

 

 925日、両院での首班指名が異なった結果、憲法67条「内閣総理大臣の指名,衆議院の優越」第二項の適用により、福田康夫氏が第91代内閣総理大臣に選出された。それは衆参ねじれ国会を象徴する首班指名劇であった。

 

 午後4時からの両議院協議会の開催、その後の衆議院本会議の再開、そして最終的な総理決定と通常の首班指名とは異なる手順が加わったため、皇居での首相親任式や大臣の認証式も25日当日中ではなく、その翌日に持ち越されることになった。

 

 そうした異例ずくめの総理大臣決定劇であったが、その夜の午後9時46分より総理官邸で内閣記者会との記者会見が開かれた。その初めての記者会見で、新内閣であるにも拘わらず福田新総理が「改造(内閣)」と発言したことなどはご愛嬌ではあるが、そうした小さな間違いにも、心の準備ができぬまますべてぶっつけ本番で総裁立候補から総理会見までひた走ってきたそのドタバタぶりが如実に顕れているように思えてならなかった。

 

安倍前総理の突然の辞任に始まった新総理選出の狂騒劇。自民党総裁選への立候補決意、地方遊説、総裁選挙、そして首班指名とこの間わずかに14日間、落ち着いて政権構想を練る暇などなかったことは容易に想像はつく。

 

そうした状況下、原稿に目を落とすことなく最初の記者会見に対応し終えたことは、史上最長の官房長官在任記録を有す福田氏の、ある意味、真骨頂であったとも言える。

 

ただ、官房長官時代の同氏の記者会見とはずいぶんと様相が異なっていたのも事実である。新総理ということで緊張感もあったのだろう、国民に対しての責任感からか言葉を慎重に選ぶかのように発言する姿はひたすら低姿勢であった。そして、決定的に違和感を覚え、おかしいと感じたのが、最後の福田総理のひと言であった。

 

「どうか皆様方のご協力をよろしくお願いいたします」

 

 この記者会見で違和感を覚えた発言を文章としていま目の前にして通読すれば、このフレーズは国民に対して向けられた発言として受け取ることができる。

 

 しかし25日の会見をTVの生放送で観たときは、実はそういう風には聴こえなかったのである。記者会見室にいる内閣記者会の記者たちを見回したうえで、「ご協力をよろしく」と発言した姿はメディアに対して確かに秋波を送るようにわたしには見え、かなり強い違和感を覚えたのである。

 

 官房長官時代に福田氏が毎日行なっていた記者会見では、仏頂面で若い記者たちに対応する場面を何度も目にした。TVに出演しまくり、司会者や視聴者に媚びを売る政治家が後を絶たないなかで、傲慢で失敬なメディアに対しては、時に不快感を露わにし、厳しい口調で応答する福田官房長官の姿は毅然としてみえた。そのメリハリのついたクールなメディア対応ぶりには正直、納得させられたものである。

 

 そうした同氏のメディアに対し一線を画する姿勢を評価していただけに、この夜の最後のひと言、「ご協力をよろしく」は、結局、「メディアによく書かれたい」「評価してほしい」というポピュリズムの道を福田新総理も歩み出すのかと見えて、失望の念に駆られたのである。

 

 権力とメディアが馴れ合ったときその国は滅亡の道を突き進む。権力とメディアが健全な緊張関係を保っているときこそ民主主義は成熟の道を歩むものであり、国民も健全な批判精神と判断力を有することができるのだと考える。その意味において、新総理はメディアの論調を世論などと勘違いすることなく、ましてやメディアに「よろしく」頼むことなどなく、国民の声を直接、聴く姿勢を貫いて欲しいと願う。

 

そしてまずはこの内閣の正統性を問うべく国民の声を生で聴く解散・総選挙を可及的速やかに実施するべきと考える。