「0.5263」を大きく報じぬ大手メディアの報道姿勢――格差社会(中)(2007.9.12)
「0.5263」を大きく報じぬ大手メディアの報道姿勢(下)(2007.9.12)

 

昨年末から年明けにかけて厚生労働省の調査で明らかにされた小中学校の給食費滞納額問題がメディアの話題をさらった。全国で約20億円にものぼる未納額の大きさに国民は一様に驚くとともに、経済的余裕がありながら子供の給食費を払わぬ非常識な保護者に批難の声があがったことはまだ記憶に新しい。

 

そしてこの822日、厚生労働省は全国認可保育所において平成18年度の保育料滞納額が約90億円にのぼることを初めて公表した。昨年度までの5年間で滞納が増えていると答えた1019市区町村のうち、65.9%の自治体が「保護者の規範意識の問題」であると、19.4%が「保護者の収入減少」をその滞納原因としてあげている。

 

各自治体は経済的余裕のある確信犯的保護者に対しては、督促状送付や財産差押えといった法的措置に訴えるケースも出てきた。また保護者からの理不尽なクレームなどで教職員が法律的トラブルに巻き込まれることを防ぐため、東京都港区が「顧問弁護士制度」を用意し、契約弁護士と区立の小中学校が直接相談できるようにするなど、あらたな動きも出始めている。まさに保育所をふくむ広い意味での教育界をめぐる保護者と教職員の問題は、「イチャモン保護者」の一方で、指導力不足教員いわば「ダメ教員」の免許更新制度議論とも併せて、家庭内や地域内での教育・指導もふくめた広い意味での教育の原点に立ち返った議論の深まりが求められている。

 

そうしたなかのほぼ同時期の824日、厚労省は「0.5263」という数値を発表した。

 

同省が3年ごとに行なっている「所得再分配調査」の報告書で明らかにされた2005年の「当初所得のジニ係数」と呼ばれる数値である。

 

ジニ係数」とは所得分配の格差を示す代表的な指標として、小泉内閣時代、国会で格差社会の拡大がとりあげられた際に、国会質疑や答弁のなかで頻繁に使用された用語である。要は全世帯の所得が同額の場合つまり絶対的平等社会を0(ゼロ)として、1に近づくほど格差が大きくなってゆくことを示す指標である。因みにジニ係数が1の社会とは、国民が1000人いる国家を想定した場合、所得を稼ぐ国民が1人のみで、残り999人は所得0(ゼロ)の奴隷という国家。つまり究極的独裁国家のような社会である。

 

格差社会を計るひとつの代表的指標とされるその「ジニ係数」が2005年の日本の社会では「0.5263」であったことを厚労省は公表したのである。

 

「ジニ係数」の数値の意味合いは一般的には次のように説明されている。

ジニ係数が「〜0.1」の範囲のときは「平準化が仕組まれる人為的な背景がある」。「0.10.2」は「相当平等だが、向上への努力を阻害する懸念がある」。0.20.3」は「社会で一般にある通常の配分型」。0.30.4」は「少し格差があるが、競争の中での向上には好ましい面もある」。0.40.5」の範囲内にあるときは 格差がきつい」。0.5〜」は「 特段の事情がない限り是正を要する」。

 

 今回の0.5263」という数値は「格差がきつい」レベルを超えて「特段の事情がない限り是正を要する」つまり早急に所得再配分の手立てを講じなければならぬ格差が社会に生じていることを語っている。

 

報告書は原則として3年に1度まとめられているため、これまでは前回の2002年の「0.4983」が最大の数値であった。それ以前からジニ係数つまり社会の格差は徐々に拡大傾向を示していた。

過去の「当初所得のジニ係数」は、19780.365019870.404919900.433419930.439419960.441219990.472020020.498320050.5263と、一貫して上昇し続けている。

1978年から2005年の27年間を9年毎の3期に分けて、その上昇率を見てみると、1978年から87年までの9年間で10.9%、87年から96年は9.0%となっている。そして96年から2005年の直近の9年間は19.3%と過去2期の9年間の約2倍という異常な上昇を示している。1978年から96年までの18年間の上昇率は20.9%と、この直近の9年間の上昇率とほぼ同一の水準となっている。これは96年までの18年間に経験した格差拡大のスピードがこの9年間では倍になっているということになる。近年、社会のなかで格差拡大が進んでいると感じることと、この数値は皮膚感覚にピッタリくるものと言える。

 

今回の調査は、公的年金などを含まない世帯単位の「当初所得」(雇用者所得・事業所得・財産所得など通常所得+企業年金+一時退職金+生命保険金等)の「ジニ係数」が過去最大の0.5263と初めて0.5の水準を超えたことを明らかにした。