自民・公明両党は憲法改正の手続きを定める国民投票法案を12日夕刻、衆議院憲法調査特別委員会(中山太郎委員長)で野党が抗議するなか民主党の修正案を否決したうえで、与党案を可決した。そして同与党案は13日の衆議院本会議を通過するはこびとなった。

 同法案については憲法改正に繋がる第一歩であるとする警戒感から、これまで民主党の独自案などが提出されるなど色々、野党との議論も重ねられ、その過程のなかで与党譲歩もふくめ相当部分で与党と民主党案の歩み寄りがなされてきた経緯がある。

 

 しかしそれでも今回の否決された民主党修正案には、わたしは実は大きな戸惑いを覚えていた。それは「投票対象議題」の部分についての規定である。戸惑いを覚えた理由はその法案名にはっきりと表れていた。

 

民主党提出法案名は「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」であったが、与党案は「日本国憲法の改正手続に関する法律案」となっていた。

 

自・公与党案は国民投票の対象を「改憲国民投票」とし、この法案が改憲の手続き法案であることを明確にしている。その一方で、民主党の修正案は「憲法改正のほか、国政における重要な問題のうち憲法改正の対象となり得る問題、統治機構に関する問題、生命倫理に関する問題その他の国民投票の対象とするにふさわしい問題として別に法律で定める問題に係る案件」と、投票の範囲を幅広く規定できるアロアンスを持たせていた。

 

民主党法案は当初原案の「改憲国民投票+国政問題国民投票」よりはその対象を絞ったとはいえ、「国民投票の対象とするにふさわしい問題として別に法律で定める問題に係る案件」を投票対象範囲としたことは、実は現行憲法の根幹に関わる大きな問題を含んでいたと言わざるを得ない。

 

 民主党案の投票範囲では国政上重要とみなされた問題は国民投票で決定することが可能ということになる。どうも地方自治体で最近よく行なわれる住民投票と同じ感覚、レベルで、民主党はこの問題を捉えているのではないかとも老婆心ながら心配してしまうのである。

 

 日本は言うまでもないが、議会制民主主義いわゆる間接民主制をとっている。憲法前文のまさにはじまりに「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」と謳われており、間接民主制はまさに現行憲法の根幹をなす部分である。

 

 その意味で、今回、民主党が提出した国民投票法案の当初原案は、直接民主制への移行をも想定している案であると言ってもよく、その後の修正案も重要な問題であれば国民投票にかけるという点では原案と本質的に変わりはなかった。本来、手続き法案であるべき国民投票法によって、憲法で定める「間接民主制」という国家の意思決定の仕組みを変えてしまうことは本末転倒というより、筋の通らぬ無茶苦茶なやり方であり話にもならないと評してもよい。

 

 憲法改正には敏感すぎるほどに敏感である民主党自身が、今回の法案では憲法の前文を大胆にも変えてしまうという大それた矛盾を犯そうとした。二大政党政治体制を目指すのであれば、主権者たる国民の信託を受けた「責任野党」として、憲法で定める改憲の手続き法がこれまで存在しなかったことに対し立法府としての責任を感じるのが筋であると考えるのだが・・・。

 

今回の国民投票法案を民主党が反対のための反対、国会対策上の一戦術としてもし捉えているのだとしたら、その対案内容においてあまりにお粗末であるうえに、まさに「責任野党」たるべしと自らが任じる立場に相応しくない対応であると酷評せざるをえないが、いかがであろうか。