都知事選挙を間近に控えて石原慎太郎氏の動きがやたらとあわただしい。218日の東京マラソンが終了したかと思いきや、この32日には都知事自らが脚本を書き、プロデュースしたという映画の完成記念パーティーである。

 

 共産党推薦の元足立区長吉田万三氏に建築家の黒川紀章氏の立候補表明はあったものの、民主党の候補者選びの迷走ぶりが伝えられるなど都知事選報道はいまひとつ盛り上がりに欠けた。しかしここに来て、6日、浅野史郎前宮城県知事が正式に立候補を表明し都知事選に参戦、民主党も同氏支援を確定したことから、322日の告示を前に都知事選は一挙にヒートアップしてきた。

 

 わたしは都知事選挙が近まる3月から投票日までは石原都政の批判を控えようと考えていたが、冒頭の映画の完成パーティーの報道に接し、その詳細を知るにつけその思いを変えた。

 

 石原氏の48日の投票日に合わせたように次々とメディア露出を果たしてくる手腕は、ある意味あっぱれとも言えるが、今回の映画「俺は、君のためにこそ死ににいく」の宣伝方法にはさすがに疑問を表明せざるをえない。この映画の公式サイトを開くと、タイトルの下の戦闘機の絵につづき「ENTER THE SITE」とある。そこをクリックするとゼロ戦?の飛行戦隊の画面が出てくる。その右下に「俺きみ応援団募集 詳細はコチラ」との不思議な文字が目に飛び込んでくる。それをまたクリックすると「団塊の世代から感動の輪を広げたい 」の宣伝ビラが出てくる。その内容は「応募資格を19471949年に生まれた男女」に定めた「仕事内容:200741日〜512日の間で1週間に12日、各2時間程度。『俺は、君のためにこそ死ににいく』宣伝に対するブレスト会議参加ほか。謝礼:5万円」とあるが、応募人数が示されていないその応募要項の意図は何であろう。

 

それ自体は東映映画宣伝部の商業広告であるから法的な問題はないのだろうが、選挙運動期間が含まれる期間に5万円という謝礼を出して人集めをし、都知事候補者がプロデュースする映画の情宣応援会議に参加させることは、見方によっては形を変えた一種の選挙活動であると言えなくもない。そのあり方にわたしは胡散臭さと同時に、疑問を感じたのである。

 

公職選挙法第131条で「都道府県知事の選挙における選挙事務所は、その公職の候補者1人につき、1箇所」と定められている。しかし、石原映画を情宣するこの活動はあくまで政治活動ではないのだから、どこに何箇所、「俺きみ応援団」の拠点を作ろうがお構いなしということになるのだろうか。それが東京地区に集中したとしても・・・。

また140条の2項に(定められた会場や車両上等以外で)「何人も、選挙運動のため、連呼行為をすることができない」とあるが、ブレスト会議の場で映画宣伝につき「石原慎太郎プロデュースの」と連呼することは、これまた文芸のことであるから公選法の埒外なのであろうか。

142条の「文書図画の頒布」についても「都道府県知事の選挙にあつては、候補者1人について、当該都道府県の区域内の衆議院(小選挙区選出)議員の選挙区の数が一である場合には、通常葉書 35000枚、当該都道府県の区域内の衆議院(小選挙区選出)議員の選挙区の数が一を超える場合にはその一を増すごとに、通常葉書2500枚を35000枚に加えた数」とあるが、「製作総指揮・脚本石原慎太郎」と書かれたポスターや宣伝パンフをもし配布するとしてもこれも埒外なのであろうか。

 

さらに第152条の「あいさつを目的とする有料広告の禁止」等々いろいろと疑問を感じる点は多いが、最も気になる点が197条の2項の「実費弁償及び報酬の額」である。

そこでは「衆議院(比例代表選出)議員の選挙以外の選挙においては、選挙運動に従事する者に対し支給することができる実費弁償並びに選挙運動のために使用する労務者に対し支給することができる報酬及び実費弁償の額については」、「公職の候補者1人について1日50人を超えない範囲内で各選挙ごとに政令で定める員数の範囲内において、1人1日につき(中略)選挙管理委員会が定める額の報酬を支給することができる」と定められている。

 

こうやって見てくると、5万円の報酬を与えられた「俺きみ応援団」が選挙期間中に候補者プロデュースの映画の宣伝活動を応援する行為は、そのあり方においてある種の「あざとさ」をやはりわたしは感じざるを得ない。