121日に投開票された第17回宮崎県知事選挙で、無所属のそのまんま東氏(本名:東国原英夫、49歳)が266807票(得票率44.4%)を獲得し、次点の川村秀三郎氏(前林野庁長官)に7万票以上の大差(得票率差12%)をつけ当選した。

 昨年1214日の立候補表明時、県民の反応は決して暖かいものではなかった。児童福祉法違反で事情聴取を受けたり、同僚への傷害容疑で書類送検されたお笑いタレントが、いくら故郷とはいえ県知事に?と言う冷ややかな反応が多かったように見えた。実際にわたしもその程度の印象しか東氏には抱いていなかった。

 しかし14日の選挙告示からスタートした選挙運動の進行につれ、都民のわたしにすらテレビや大手新聞社の報道から、県民の東氏に対する見方が微妙に変化していく様子が見てとれた。同氏が地道にひたむきに沿道で語りかける様子が伝えられ、彼の熱い地方自治へのひたむきな言語が私の胸にも迫ってきた。県民はまさに当事者としてその熱い言葉を全身で感じ取ったのではなかろうか。当選後に放映された選挙演説中の東氏の言葉は力強く、そして改革、刷新に向けた熱い思いは言語を通じびしびしと耳朶(じだ)を打った。「政治家は言葉が命」とよく言われるが、過去に不祥事を続けたお笑いタレントがまさにそのことを実証して見せてくれた。

 

そしてその映像を目にしたとき、来年の米大統領選へ立候補の意向を示し、その卓越した演説力で評価が高いアフリカ系米国人の民主党オバマ上院議員の顔を思い浮べた。20047月の民主党大会における基調スピーチで注目を浴びたが、そこで「黒人の米国も白人の米国もなく、リベラルの米国も保守の米国もなく、ただ米国があるだけだ」と熱く訴え、「イラク戦争に反対した愛国者も、支持した愛国者も、みな同じ米国に忠誠を誓う米国人なのだ」と語った。そして「アメリカは個人主義で有名だが、もう一つの重要な物語は、アメリカは一つの国民としてつながっているということだ」と高らかに謳うオバマ氏の姿に、そのまんま、東国原氏の姿がだぶったのである。

「長い宮崎の保守の歴史が変わる」「みんなで、みんなで、変えんといかん」「宮崎をどげんかせにゃいかん。新しくせにゃいかん」と、宮崎弁で語られた熱いメッセージは心を強く揺さぶった。

 

 今回の勝因として64.85%(前回比+5.51%)という投票率の高さに加え、保守陣営の分裂と民主党の独自候補擁立の不首尾が大きいとされた。自公推薦の持永氏と保守系川村氏の得票数合計は、315949票と東氏を49千票上回る。その票数差を投票率に換算すると5.3%となる。今回の投票率が70.2%にのぼれば、つまり無党派層というか政治に関心のない無関心派層が投票所へと足を運び、東氏に票を投ずれば、保守票いわゆる組織票が束となってかかってきても、東氏は当選できる計算になる。

 

 政治家が言葉の力により、政治改革・刷新の強い意志を選挙民の心に訴えかけることができれば、投票率は自発的に上昇するはずである。それは一部権益の擁護に汲々とする組織票の影響を薄めらることにつながり、結果として民意を公正に反映した政治家が選出されることになる。われわれ国民の政治に対する意識向上・改革が必要であることは言を待たないが、政治家が魅力ある言葉で高い志と理念を謳いあげる力を備えておれば、人々はポスターやテレビで「選挙に行こう」と強要されずとも、この人物に将来を託したいと自主的に投票所へと足を向けるはずである。

 

選挙結果を受け自民党の丹羽総務会長は「ショックだ。自民党は実績を積むしかないが、参院選の比例選候補には知名度の高い人を選んだ方がいい」と述べたが、候補者には「知名度の有無でなく、言葉に力があり、発した言葉に責任を持てる人物を選ぶべき」と発言すべきであった。まさに丹羽氏自身の言葉の非力さと見識のなさに無関心派が投票所に足を背ける原因を見てしまい、そうした政治家を国民の代表としていることに深い悲しみを覚えてしまう。