「北朝鮮のミサイル発射の意図」

 

北朝鮮は5日午前3時32分から8時17分の間に、6発のミサイルを順次発射した。その内、3発目が米国アラスカを射程距離内に収めるテポドン2号、その他がノドンあるいはスカッドミサイルと思われるとの政府発表であった。そして、6発いずれもが日本海上に着弾したとのことである。

 

テポドン2号への燃料注入疑惑に始まった一連の北朝鮮の国際社会への挑発行為は、とうとう射程距離6千キロのテポドン2号を含む6発ものミサイル連続発射という事態にエスカレートした。刻々とミサイルの発射弾数が増えていく報道を聴きながら、わたしは、ある種、戦争が勃発したかのような錯覚に陥った。そして、「戦争」とは意外とこうした日常的な雰囲気の中から、ふわっとした感覚で始まっていくのかも知れないと思ってみたりした。

 

ところで、今回の北朝鮮の意図はどこにあるのか。なぜ、国際間で孤立を深めるような行為を敢えて今朝、行なったのか。

 

ひとつは、燃料注入を完了していたテポドン2号の処理の問題がある。

つまり、瀬戸際外交と称される「テポドンを発射するぞ、発射するぞ」と、脅迫することで、米朝二国間会議開催を勝ち取ることを狙った。米国によるマカオの金正日(キムジョンイル)秘密預金封鎖に猛烈な危機感を抱き、恐怖感を覚えているように見えた。最近の焦燥感を募らせた米朝二国間協議開催への北朝鮮の異常なこだわり、焦燥感が、それを如実に物語っていたと言える。

 

しかし、結局、米国から寸分の譲歩すら獲得できなかった。まさに瀬戸際戦術の失敗である。一旦、注入した燃料を抜き取る作業はより高度な技術が必要と言われている。米国に対して振り上げた拳をどのような形で、降ろしたらよいのか。その答えが、今回のミサイル連続発射という稚拙な行為だったのではないのか。

 

 米国の譲歩が引き摺り出せなかった北朝鮮が、燃料抜き取りという形で引き下がる政治的選択はなかった。ましてや、燃料抜き取りの過程でテポドンが誘爆するようなことにでもなれば、国威は失墜し、燃料注入を命じた金正日は軍部からの信頼を一挙に失う懸念があった。金正日の独裁体制に大きな亀裂を生じさせ、体制崩壊の危機となる。

 

 もし、二国間協議が開催の運びとなった場合、燃料抜き出し失敗の際は、自爆処理をしたとでも言い逃れをすれば、国威は失墜しない。

 

二つ目は瀬戸際外交の間合いをもう一段詰める、非常に危険な賭けに出たという見方である。

 

この見方は日本を含め国際社会にとって最も危険極まりない北朝鮮の選択である。その先には、「核実験」しか残っていないからである。今回の連続ミサイル発射はそこへ向う道筋の単なる一里塚でしかなく、これから下されるであろう国際社会の経済制裁を受けて、必然的に「核実験」という無謀な選択に突っ走ることが、容易に予想される。わが国は首筋にナイフどころではなく、マシンガンをつきつけられることになる。そして、東アジアの政治的安定に大きな歪みが生じ、国際情勢に不穏な空気が充溢することになる。こうなった時に、軍事的に独立していない日本は大きな危険に曝されるとともに、まだ東アジア諸国との間に、平和的枠組みでの秩序を構築できていないわが国は、ますます米国への従属を強いられていくことになる。つまり米国隷属化の道を歩まざるを得なくなるのである。

 

今、私の脳裡には不吉な考えが浮かんでいる。北朝鮮は、国連の緊急安保理で国際的な経済制裁網を敷くことが決定された場合を想定して、既に「核実験」の準備を終了しているのではないか。安保理採択と同時に、核実験を決行する。北朝鮮ならそれくらいの先読みをした外交戦略で来ることは、充分想定できる。小泉総理のこの5年間に東アジア政治の平和的枠組みの構築は、靖国問題で大きく後退こそすれ、前進は全くなかったといってよい。日本がこうした丸裸の状態で、核実験という緊急事態を迎えれば、わが国は米国に対しBSE問題で輸入反対どころの話でなく、何でもアメリカの云うことを聴くから、国を守って欲しいと跪(ひざまず)くしかないのである。まさに、米国の属国になることを選択する道しか残されていないのである。

 

三つ目は、米国の独立記念日である7月4日という日に狙いを定め、合わせて、米航空宇宙局(NASA)時間の4日午後2時38分(日本時間5日午前3時38分)という、スペースシャトル「ディスカバリー」の打ち上げ時間に米国に照準を合わせてミサイルを発射、米国民に恐怖感を覚えさせようと考えた。勿論、米国の譲歩を引き出すためである。あまりに子供じみて馬鹿げているが、白馬に乗って駆ける金正日、映画の演出が好きだという金正日を思い起こせば、この三つ目の意図もあながち漫画チックだと云って笑うことも出来ない。

 

 それほどにこの北朝鮮という国は不気味で狂気の存在であることを、われわれは片時も忘れてはならぬと思った。

 

 

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