「共謀罪関連法案に反対」

 

 四月二十一日(金)から共謀罪の創設を含む「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」の本格審議が衆議院法務委員会(委員長石原伸晃)で始まった。そして、わずか一週間後の二十八日には採択の予定である。

使い方によっては、この法案が憲法第19条【思想及び良心の自由】、第21条【集会・結社・表現の自由,通信の秘密】で保障されている思想・結社・表現の自由を脅かすことになりかねない「怖さ」を有していることを国民の前に明白にし、透明かつ慎重な議論がなされるべきと考える。その意味において、過去二回廃案になったこの法案が、今国会でわずか一週間、実質的にはほんの三、四日の形式的審議で成立を図ろうとする自民党の姿勢は甚だ問題があると言わざるを得ない。

 

 抑々、共謀罪の法案問題は国連総会で採択された「越境組織犯罪防止条約」に端を発す。日本は200012月、イタリアのパレルモで「越境組織犯罪防止条約」の本体条約に署名した。そして、同条約を批准するためには国内関連法案の整備が必要である。その柱となるのが共謀だけで実行の着手がなくても可罰的とする「共謀罪」という新たな法律である。そのほかに「証人等買収罪」、「両新設罪の犯罪収益規制法の前提犯罪化」、「贈賄罪の国外犯処罰」などの諸規定も同様に審議されることになる。

 

 難しい法律論議は私にはわからないが、これまでの「刑法」が犯罪が実際に実行、準備された場合に、その行為を処罰するのが大原則であったのに対し、この共謀罪は実際に犯罪を実行、準備をしなくても、団体の活動として刑の上限が4年以上の犯罪を行なおうと合意したと、警察や検察が認めれば新法の適用により摘発が可能になるという。共謀罪の概要は、死刑または無期もしくは長期4年以上の懲役もしくは禁錮の刑が定められている「罪に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行なわれるものの遂行を共謀した者」を処罰するもの(法案第6条の2)。長期4年以上の刑を定める犯罪についての共謀は懲役2年以下、死刑または無期もしくは長期10年を超える刑を定める犯罪についての共謀は懲役5年以下の刑となっている。

 

現代、国際社会で多発するテロや麻薬密輸など組織的国際犯罪は一国家の対応で防止することは難しい。従って国連を中心とした国際的ネットワークのなかで、その防止なり犯罪組織の摘発、根絶を目指すこと自体に問題はないし、その方向性は十分、理解できる。

 

しかし、私は謀議をこらし合意したと権力当局が認定をすれば、その団体なりその構成員が摘発、逮捕されることに、戦前の特高や憲兵が例会とする俳句会や同人誌の集まりなどに乱入し、さまざまな無辜の国民を拘束、収監した暗い歴史を思い起こさずにはいられない。暗黒の社会が訪れ、権力の自己抑制のタガがはずれる時、今の内容の共謀罪は時の権力の、格好の権力維持装置となる。

 

先に述べたように組織的国際犯罪の撲滅に向けて、各国が協力体制で臨む必要性は十分首肯でき、そのために国内法の整備が必須であることも十分、理解できる。ただ、団体の活動として刑の上限が四年以上の犯罪を行なおうと合意したと検察当局が判断した場合という、その犯罪対象行為を「刑の上限が四年以上の犯罪」という、言わば投網をかけるような形(有印私文書偽造、公用・私用文書毀損、消防法火災報知器毀損、郵便法郵便用物件を損傷する等の罪など600以上の法律名・罪名が対象となる)で何でもありの認定基準の「共謀罪」はあまりに恣意性が大きく危険であり、決して許されるべきものではない。少なくとも「テロ」「麻薬」と犯罪対象行為を国際的なネットワークで対処する効果のある組織犯罪に特定した狭い意味での共謀罪とすべきである。

 

この国の権力が法治国家という仮面をかぶり、その「法の鞭」で国民を打擲(ちょうちゃく)し、暴走したのは、つい六十年前の不幸な出来事である。まだその傷の癒(い)えぬ人々は存命である。こうした過ちを二度と繰り返すべきではなく、この天下の悪法に我々は断固、反対の狼煙を揚げるべきである。決して遅くはない。日本全土で狼煙を揚げつづけることが大事であると考える。