昨年の新緑の5月以来、久方ぶりの弥生の「割烹やました」である。
当日は長年の懸案であった二条城へ、半世紀ぶりの拝観を果たしたあと、「割烹やました」で京の弥生の味覚を堪能した。
前回は医者からアルコールを控えるようにいわれていた最中だったので、せっかくの「やました」の料理を味わい尽くすといった気分でなかったのか、どうも乗りが悪かったなという記憶しか残っていない。
現に、ブログにも鰻の蒲焼の写真を掲載したのみで、常の食への執念が感じ取れない。
それもあってか此度は5時半で予約をとった。
しかも大将の正面の席をお願いし、料理談義に花でも咲かせようと意気込んだところだ。
席に腰を落とすや否や、細君がいつものようにカウンターに盛られた食材に視線をめぐらす。
本日は大ぶりの肉厚な椎茸、そして蛤、赤貝・・・なかでもわが家のひな祭りのお吸い物に入っていた“角上魚類”の蛤とくらべて、どうしてこんなに大きな蛤がと、呆れ果てるほどの大きさである。
そして毛ガニ・・・
わたしの口のなかはすでに生唾で大洪水・・・
さて最初に赤貝のお造りで「桃の滴」を一献・・・
その間に細君が蛤をいろんな食べ方をしてみたいと、大将におねだり・・・
そこで出てきたのが、ひとつは蛤の炒め物。
炒めた蛤、トマトの酸味とアスパラの香りが絶妙の取り合せである。「リストランテやました」、半端ない!!
もうひとつが蛤の天ぷら・・・これには肉厚の例の椎茸もついていた。
ひと口食べて・・・へぇ〜とわたし・・・
天ぷら大好き人間の細君はというと・・・この肉厚なむき身でないと天ぷらにはできないなと、わが家の蛤をおそらく思い浮かべていたのだろう、頬をゆるませていた。
そしてわたしはこの日が今年最後となる“てっさ”だというので、“ふぐ刺し”をいただく。
かつてこの「やました」の調理で、初めて“ふぐ刺”の旨さを知らされた。
次にお野菜というか、春の初物づくしで、初筍と新ワカメの若筍煮をいただく。
細君はここらでもうお腹はいっぱいになったというが、ノドグロの塩焼きなんぞどうかと誘い水を向けると・・・いとも簡単に・・・陥落・・・
脂がのった・・・言うも言われぬ美味しさ・・・
そしていよいよ細君が本日は腹仕舞いということで、明日の朝にと・・・鯖寿司を包んでもらうよう頼んでいた。
その様子を感知したわたしは・・・これで久方ぶりの「やました」を撤収というのでは、東男が廃(すた)るというもので・・・大将に腹はいっぱいになったが、酒の摘みになる変わったものをすこしとお願いした。
そして出てきたのが次なる珍味オンパレード・・・
びっくりと言おうか、世の中、ほんとうに珍味なるものがあるのだと、この夜、食の奥深さに唸らされたものである。
まず、バチコの材料というかこれを日干しにしてバチコにするという、「なまこの卵巣」が供された。
バチコそれ自体が珍味であるのに・・・これはまさにレアな・・・天下の珍味であった。
さらに「のれそれ」なる珍妙な名前の代物・・・
白魚の踊り食いではないが、それより大ぶりな透明な・・・穴子の子だというではないか。
咽喉越しはすっきり、スルリとした食感で、これまた食べ応えのある珍味であった。
次に・・・これって何だったか? う〜ん・・・名前が思い出せない・・・でも、珍味!!
最後に「いぶりがっこ?」
・・・食後にあっさりレモンをかけた一品。
口内はすっきり爽やか、なかなかな珍味のオーダーではあった。
そして忘れちゃいけないのが、それなる珍味にあわせる酒をと用意してくれたのが、とっておきの伏見の限定品でアルコール度も12%の発泡酒。
名前を控えなかったので・・・お相伴した細君も名前を思い出せなかった・・・
まさに上質のシャンパンであり、一本、買って帰りたいと申し出たが、本数がないのだと、さすがの大将も首を縦には降らなかった。
かくして、胃袋をドンチャンさせた弥生の「やました」の夜はふけていったのである。
押小路橋まで見送ってくれた大将とあれこれ話は尽きなかったが、互いの健康を誓い合い、夏の再訪を約してお別れをした。
やはり・・・「やました」はいつも最高の気分にさせてくれる京都の名店ではある。