まずは水瀬杏と北村大悟が湖畔に座って夕日を見ながら語り合っていた場面だが、宍道湖東岸にある白潟公園がそのロケ地である。
当日は、佐太(サダ)神社を参拝してから揖夜(イヤ)神社へ向かう途上の立ち寄りであった。時間はお昼過ぎであったため宍道湖に落ちる夕日は見られなかったが、秋空の下、穏やかで鏡のように美しい湖面が印象的であった。
湖岸から階段を昇った先に芝生の広場があり、そこからの景色も見事である。
ここはなかなか雰囲気があって、宍道湖の湖面のようにおおらかで優しい気持ちに自然となってゆくなどデートスポットとしては最適の場所である。
さぞかし、夕焼けの迫る湖畔で語り合う恋人たち・・・う〜ん、絵になるなぁ。松江は恋人に優しい街、恋人創成の街だと強く感じた次第である。
また、砂時計のドラマにも出てくる松江城が公園の北方1kmに見える。
今年7月に天守閣が国宝指定されたばかりのホットなお城だが、今回は遠目にて失礼した。
次に、いよいよ砂時計で杏と大悟が見上げた仁摩サンドミュージアムをご紹介しよう。写真で見たことしかないわれわれ夫婦は実際に現地を見てびっくり。
想像していたよりも大規模で、世界一という一年計の砂時計もなるほど大仕掛けで、しかも、精巧な造りで、これはドラマ云々の前に必見の価値はあると思った。
この仁摩サンドミュージアムはストーリーの重要な場面でたびたび登場する。
ドラマ初回、両親の離婚を機に島根へやって来た杏が母・美和子と一緒に訪れ、一年計の巨大な砂時計を見上げて語るセリフが印象的である。
「一年ってこんなに長いのねぇ」とつぶやく母の美和子。
それに対し12歳の杏は「長くなんかないよ。たったこれだけだよ」と無邪気に応える。生きつづけることに何のためらいも持たぬ少女の真っすぐで正直な気持ちの吐露である。
「長いわよ・・・・・・この一粒目の砂が落ちるころにはこんなことになるなんて思っても見なかったもの・・・」と美和子がさらにいう。
人生の後悔と将来への大きな不安を胸に畳み込んだようなセリフで、今後のストーリー展開に十分な期待を持たせる名台詞である。
「無理やり流される時間、なんかいやね・・・」と語る母親と隣に立つにこやかな小学6年生の杏。その頭上に大きな砂時計・・・
それから、このドラマの重要な小道具として使われる一分計の砂時計をこの仁摩サンドミュージアムで美和子から買ってもらうのである。
サンドミュージアムには杏と大悟もその後、デートで訪れ、幸せだった二人が砂時計を共に見上げるシーンが出てくる。
また、杏と大悟の恋を最後まで邪魔する婚約者・進藤あかね(ドラマのみのキャラクター)も、杏との思い出が詰まったサンドミュージアムと知っていながら、大悟にそこへ行きたいとせがみ、この大きな砂時計を二人で見上げるシーンにも使われた。
このとき視聴者は、杏の気持ちを思い胸が締め付けられ、不覚にも涙をこぼし、このあかねという意地悪な女に憎悪の炎を燃え上がらせる。わたしも思いっきり、この進藤あかねを罵倒したものだ。
そんな杏が大切にしていた砂時計、高名な砂時計職人の金子實氏がひとつひとつ吹きガラスで作った貴重なものだそうで、我が娘もこの仁摩限定のドラマ仕様の砂時計を購入していた。
そんなことを事前に知らぬ老夫婦はこの方がお洒落でよいと購入したのが、下の砂時計。
見栄えはこのガラス製の方がよいのだが、ドラマ砂時計ファンとしては、そこは木製のものでなければ価値はない。見学後にドラマにハマったわれわれは歯ぎしりするしかない。だから、砂時計の写真は娘にお願いして撮らせてもらった。
さらに、大悟が杏からもらったペンダントの小さな砂時計も、ドラマのヒットを受け、仁摩ミュージアム限定で製作・販売されている。娘はそれもしっかりゲットしていたのだが、もう大事な人にあげてしまったとのことで、写真もアップできない。色々な意味で、トホホ・・・
最後に鳴り砂の琴ヶ浜を紹介する。
ここもドラマ初回に、杏が母・美和子の実家に向かう途中に立ち寄り、悲しい琴姫伝説を聞かされる場所である。
その伝説とは、平家一門の姫が琴を抱き小舟のなかに倒れたままこの浜に流れ着いた。村人に助けられ元気を取り戻した姫は報恩のため夜ごと妙なる琴の音を響かせ、村人の心を慰めた。一年が過ぎた頃、馴れぬ生活から世をはかなみ、「わたしが成仏したらばこの浜から琴の音を発しよう」と遺言して亡くなった。
それ以来、この浜の砂は鳴き出したのだという。この浜辺には琴姫を慕った地元の人によりお墓が作られている。
実際に菩提寺にあった姫塚からは自動車道工事の際に土葬された女性の骨が出土し、伝承が事実であったことが証明されたと地元の老人が説明してくれた。この浜辺のお墓には分骨された遺骨が入っているのだという。
その琴ヶ浜、杏との楽しいデートの場面などいろいろと登場する。
恋の邪魔をする進藤あかねの車椅子を押しながら岸壁を散策するシーンなどはむかついて仕方のないところで、琴ヶ浜が登場する。
そして、クライマックスの杏がなくした砂時計を大悟が探し出すのも、この悲しい伝説の残る琴ヶ浜である。
われわれは地元の方の琴姫伝説の説明を聞き終えてから、実際に浜に下り、砂を踏んだ。浜辺を少し、海側に近寄ったあたりから、大きく砂が鳴きはじめた。
正直、ちょっとびっくりした。これほど、はっきりと耳に聴こえるように砂が鳴るとは思いもしなかった。これはすごいと家族全員でキュッキュッキュッと大はしゃぎで砂を踏みしめ、歩き回った。
時間はあっという間に過ぎ、夕刻となった。生憎、当日の空は白い雲が一面を覆い、夕日は無理だと車に乗り、エンンジンをかけまさにスタートしようとしたときである。リアウィンドウから太陽の光がわっと車内に雪崩れ込んできた。驚いて海岸の方を振り返った。すると、水平線の少し上に茜色の太陽が顔を出していたのである。
琴姫さまがせっかく遠い都から仁摩の浜辺へ来られたのだから、この美しい夕景色を見ていらっしゃいと引き戻してくれたようであった。全員、車を降りて浜辺へと戻り、夕日が水平線に沈んでゆくうっとりするような素晴らしい景色を愉しんだ。
その日は温泉津(ユノツ)温泉の創業100年を超える木造三階建ての老舗旅館“ますや”での宿泊であったが、その夜は目の前にある龍御前神社の社殿内で石見神楽を堪能する機会に恵まれた。これも琴姫さまの優しいお心遣いと感じたところである。砂時計の島根のロケ地めぐりはこれにて終了。