中京区 先斗町通四条上ル鍋屋町232-10
075-212-1555
定休日:火曜日
納涼床(のうりょうゆか)といえば、京都の夏の風物詩となっている。夏の暑い時分に京都を訪れる機会がないこともあり、これまで納涼床なるものを試したことがなかった。
川床といえば、遠い昔に貴船の川床(かわどこ)を愉しんだことはあったが、鴨川はどこか俗っぽくってこれまで敬遠していたというのが、正直なところである。
そんなわたしがどうしてということだが、この日に帰京することからゆっくりランチをとり、そのままの足で京都駅へ向かいたかった。そして“割烹まつおか”、“割烹やました”と連夜の和風料理だったため、ランチくらいは洋風でいいかなと思った。
そこで少しお洒落にゆったりできるお店はと探したところ、ミシュランガイドでイタリアンで京都初の星を獲得したという“cucina italiana LUNGAMO(クチーナ・イタリアーナ ルンガモ)”を見つけた(旧店名:リスタ・ジョルジオ・ピンキオーリ)。ちょっとまぁミーハー的関心もあったりしたのだが・・・
その“LUNGAMO(ルンガモ)”がたまたま納涼床をやっていた、まぁ、出合い頭にエイッ!“納涼床”ってな調子で、こうした次第と相成ったわけである。
そもそも鴨川の納涼床は例年、5/1-9/30までの営業だが、5月と9月の2ヶ月だけはお昼も床を開いてよい取り
決めとなっているそうで、シーズン限定という甘い言葉に何だかラッキー!と軽い乗りで予約を入れたというのもあったかもしれないなぁ・・・。
まぁそんなこんなで9月下旬という時期外れに初の鴨川納涼床の体験となったというわけである。
さて“LUNGAMO(ルンガモ)”のランチだが12時から15時まででゆったり過ごせる。
場所は四条通りから先斗町通りへ入ってわずか8軒目であるが、むか〜しお世話になったお茶屋“楠本”の対面にありました。
入店前に先斗町の通りをぶらぶらしてみたが、昼明かりのなかでのこうした場所はいささか気の抜けたビールのようなもので、いささか無粋であったが、ずいぶんマルチ・ナショナルな通りになっていたのには驚いた。 自分が先斗町のイタリアンレストランにいこうとしているのにそんな感慨に耽るのもいかがなものかと思ったが、逆に先斗町だからこそ時代の流れをうまく己の懐に抱き込んでいるのかも知れぬと考えなおしたものである。 つまり先斗(ポント)町という奇妙な町名の由来のひとつに、ポルトガル語のポント(先端)、ポンスト(橋)から来たという説があるそうで、時代の最先端とか未来への懸け橋なんて・・・いかにも京都の革新性を象徴しているような気がしないでもないと思ったのである。 さて9月下旬の昼下がり、テラスいや納涼床でランチをとるのには恰好の天気である。日本晴れで、しかも秋というより晩夏を想わせる陽射しが川風に冷める肌に快い。 納涼床を被う“よしず”が、季節は秋であるのにこの日の陽射しにはよく似合っていた。 繁忙期にはもう少し席数は増えるのだろうが、納涼床にはゆったりと5つのテーブルが置かれていた。わたしたちは南座と四条大橋がよく見える席へと案内された。 上空には青い空、眼下には水底の見える鴨川、斜め正面に南座を眺めながらの落ち着いた雰囲気でのランチ。 これは納涼床に抱いていた喧騒なイメージとはまったく異なる予想外の出来事であった。 その静謐な空気を揺るがさぬようにスタッフはアダージョな旋律で料理を運んでくる。 まず前菜3品がスマートなお皿に盛られてサーブされた。ひとつひとつ丁寧に説明がなされ、これはもう本格的なイタリアンである。納涼床だからさぁなんてレベルでないことは確かである。 パルミジャーノのビアンコマンジャーレとキノコのズッパ、要はスープである。 ホタテ、モルタデッラのスプーマとビーツ、要は、・・・写真を見てください。 カツオのアフミカートのプッタネスカ風バベッティーニ、要は平たくて長いパスタである。 料理のお皿から鴨川へと視線を転じると、清澄な鴨川に一羽の白鷺が遊んでいる。そのゆったりとした動きにこちらも知らず知らずに憂き世の憂さを忘れてゆく・・・ そしてメイン料理はわたしが魚、家内がお肉を注文し、それぞれを仲良くシェアした。 お魚がイトヨリのポワレで、かなりイケてましたね。 お肉はホロホロ鳥のアッローストで、これも淡白な味でリンゴのソースとよく合って美味でした。 一品、一品をお客の様子に合わせて供してくれるので、贅沢な時間をゆっくり堪能できた。 さっきの白鷺は視界から消えて、今度、目に映じたのは、なんと風流な・・・、投網する人である。じっと目を凝らし、その瞬間をパチリ。 この納涼床のゆったりとした時の流れを愉しみながらデザートを待った。 そして運ばれてきたデザートの色合いになぜか徐々に深まりゆく秋の季節の移ろいを感じた。 それを引き立てる小道具もお洒落でした。 そして愛嬌満点のコーヒーが可愛らしく挨拶をしてくれたのにはこちらもニッコリして、“アリガト〜!”と応えたものでした。 三日間にわたる京都の旅をこのようにリラクゼーションした雰囲気で終われたことは望外の喜びであった。 “LUNGAMO(ルンガモ)”はミシュランで選ばれたから素晴らしいのではない。料理の味はもちろん、それを引き立てるシンプルだがスマートな器、スタッフの心のこもったサーブに加え、鴨川や南座を借景とする京都を象徴する景観、それらすべてがミックスされて、お客の気持ちを満たしてくれるから素晴らしいのだと、考えて見れば当たり前のことが妙に納得されたところである。 そして“LUNGAMO(ルンガモ)”は、今度は夜も訪ねて見たいと思わせる大人のレストランである。