ブラッセルで開催されていたEU首脳会議は、温室効果ガス排出量を2020年までに1990年に比べ少なくとも20%もの削減を行なうことを決定し、閉幕した。

 1997年の京都議定書における「先進国及び市場経済移行国全体」の目標は、2008年から2012年の平均値として、少なくとも1990年排出量の5%の削減という数値であった。日本は議長国としてその平均を上回る6%の削減目標を標榜した。その時点でも、拡大前のEU15カ国段階での削減目標はマイナス8%と最も高い削減率を公約していた。

 

 そしてこの22日に公表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告書で「気候システムに温暖化が起こっていると断定するとともに、人為起源の温室効果ガスの増加が温暖化の原因であるとほぼ断定」された直後のEU首脳会議で、地球温暖化防止に対する積極姿勢を強くアピールし、温室効果ガスの最大の排出国である米国や第二位排出国の中国、さらに産業立国の日本を強く牽制する恰好となった。実際に米中両大国は1990年の排出量を2002年実績では2割から4割ものオーバーとなっており、削減どころか膨大に炭酸ガスを排出しまくり、地球環境の破壊大国となっていると言ってもよい。

 

 ところがわが国もその両国を非難する立場には到底なく、2005年実績(速報値)で90年の基準年より温室効果ガスの排出量はプラス8.1%と大きく増加をしている。

 

 とくに経済大国の米・日や高度経済成長を続ける中国という大国が温室効果ガスを増大させている現実のなかで、京都議定書の目標達成もほぼ視野に入ったEUが、温暖化防止に対するさらなる積極姿勢を打ち出した真の理由は何であろうか。地球温暖化防止に積極的に取り組むこと自体はわれわれ人類にとっては当然、プラスの評価であることは言うまでもない。しかしこのこととは別の意味において、今回のEUの削減率の大幅アップが重要な国際政治上の意味を持っていることはまったく別の問題であることは知っておかなければならない。

 

 現在、米・中両国は京都議定書の枠外にあるものの、今回のIPCCの「温暖化人為的原因論」の断定的公表により、これまで両国がとってきた温暖化防止、地球環境保護に無頓着という自儘(じまま)な姿勢は国際世論が許さぬ情勢となってきた。

そうしたなかで米・中両国および日本は前述の通り基準年に比べ、現在の排出量は大幅な増大をしている状況にある。ブッシュ米大統領が1月の一般教書演説においてガソリン消費を10年以内に20%削減との数値目標を掲げ、地球温暖化と正面から対決する強い姿勢を見せつけざるをえなくなったことに、温暖化問題をめぐる国際情勢が大きな転換点にきたことを実感せざるをえないのである。

 

そうした国際情勢の変化のなかで、米中が温室効果ガスを京都議定書の締約国並みの目標値(少なくとも90年比5%の削減)に収めることを国際社会から求められてくるとすれば、大口排出部門である産業界に大きな削減努力を迫る必要が生じてくる。そもそも締約各国が温室効果ガスの削減目標を達成するには炭酸ガスの排出量の最も大きな産業部門に大ナタを振るわねばならない。それをせずして目標達成はむずかしいと言う現実がある。

 

それはエネルギー転換を革命的、ドラスティックにやれれば別だが、通常の方法では経済成長にとりマイナス要因となることが多い。炭酸ガス排出量の少ない製造設備や製品開発を進めたり、産業連関表における生産波及効果の高い自動車産業に甚大な影響を与える自動車の利用規制など大きな経済的負担を伴うことになってくる。その結果として製造コストの上昇を招いたり、経済規模の縮小といった形で国際競争力を低下させる事態を招来する。

 

 すべての国が同じ条件にあれば同比率で経済規模なりを縮小することで、各国間の国際競争力の優劣に変化を生まずに各国の確執を生むことなく温暖化を防止することが可能となる。しかしそれは現実的には無理な相談であり、各国の国益というエゴが当然のことながら顔をのぞかせてくることになる。

 

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