高遠城址の紅葉祭りは11月3日から13日であったが、それに遅れること3日目に高遠を訪れた。蓼科高原の紅葉も終わり、まだ南信州の方は残っているのではないかと、かすかな期待をしてのことである。
紅葉がなかったとしてもあのひなびた杖突街道をのんびりと走るのも、天気も良いし、いいんじゃないかいと思い立ったのである。それに杖突峠の茶屋から晩秋の好日、諏訪を一望するのも楽しみであった。
この日は空気が澄んでいるのだろう、峠の茶屋からは真下に諏訪湖、遠くに北アルプスの稜線がよく見てとれた。
高遠へはここ数年行っていなかった。杖突峠を下って高遠町の“古屋敷”あたりから期待していた“ひなびた”街道は一変し、道路は拡幅され、りっぱな道に変じていた。
途中、商店や住宅が並ぶ辺りは以前と変わらぬ佇まいですっと道路が狭くなっているのだが、田んぼの脇を走る街道は周囲の山里の景色とはどうもそぐわぬ“機能美”を見せているのである。これは都会人の我がままなのだとは思うが、「NHKの“新日本風土記”などこれからの番組制作も大変だなぁ」なんて思いながら、高遠へと向かった。
そしてまたまたビックリ。高遠の中心街を通らずにループ式の道路が高遠城址へ直接通じていたのには驚いた。以前はクネクネ細い道を町筋から登っていったのだが、あれっという間に、高遠城址公園の北口駐車場へ辿り着いた。
駐車場もガラガラで、「こりゃ、モミジもだめだね」と家内と語り合いながら、ひっそりとした城址へと入った。
もう葉っぱも落ちて枯れ枝から真っ青な空が美しく見える。城内に紅葉はチラホラ見える程度・・・。
ブラブラしていたら、「こっち、きれいだぁ!」と家内の声がした。南曲(ミナミグルワ)の方である。そちらに目を転じたところ・・・、美しい家内の、いや間違えた・・・、それはそれは美しい紅葉の下で家内が手招きしていたのである。ホント、日本語って、ム・ズ・カ・シ・イですねぇ。 白兎橋(ハクトキョウ)手前のモミジがわれわれが来るのを待ってくれていたかのように、それはそれは見事な紅いの装いを今を盛りと凝らしていたのである。 折しも昼下がりの陽光が照紅葉を描き出してくれていた。 われわれはモミジの樹下にたたずんだ。晩秋の光が照葉を透かした様子は、二人の全身を染め抜くかのように思えた。 静かな城址の止まったような時間の中・・・、紅の光彩のなか空中を浮遊しているような感覚に捉われていた・・・。 白日夢に酔ったあと本丸の方に向かうと、そこには紅葉の巨木が大きく枝を張り出し、豪奢に紅の彩りを誇っていた。それは晩秋の青空に映え見事の一言に尽きた。 そうして目の保養を終えた二人は町へ下り、胃袋の栄養を採りにいったのである・・・