10月4日のブリュッセルでの日中首脳の偶然的首脳会談において、日本は致命的ミスを犯した。
中国・新華社は会談を受けて10月5日に、「温総理『釣魚島は中国固有の領土』強調 菅首相と会談で」との見出しで、「日中首脳会談で温首相は、釣魚島(尖閣諸島)は中国固有の領土であると改めて主張」と、報じた。
中国漁船衝突事故に際して、当初、日本政府は「尖閣諸島に領土問題は存在しない」として、国内法に照らし船長の逮捕・拘束・延長は検察の判断で、粛々と手続きを進めた結果であると説明した。
それが、船長の拘置延長を決めた19日を境に、中国政府の対応が一挙に硬化した。翌日の20日、軍事管理区域内で不法に軍事目標をビデオ撮影したとして、建設会社「フジタ」社員4名が中国内で拘束された(内3名は30日に釈放)。
21日には、ニューヨークを訪れていた温家宝首相が「われわれは(日本に対し)必要な強制的措置を取らざるを得ない」と発言をエスカレートさせた。経済面でも23日以降、レアアースの実質的な輸出制限に踏み切るなど、対日圧力を強めていった。
そして、25日に釈放された船長が福州の空港に到着するのに合わせ、中国外務省は、「(日本は)中国の領土と主権、国民の人権を著しく侵犯した。中国政府は強い抗議を表明する」と述べ、「日本側は今回の事件について中国側に謝罪と賠償を行わなければならない」との声明を発表した。まさに矢継ぎ早の強硬策の連続パンチであった。
それに対し、日本政府の不甲斐なさは、処分保留で船長を釈放した24日以降の腰砕けの対応である。
そもそもこの事件は、前にも述べた(9.26付け)が、中国漁船の拿捕という初期動作の幼稚な決断にあったことは、言を俟たない。
しかし、国家主権を前面に押し立て、拿捕し、船長を逮捕してしまったのであれば、それ相応の外交上の筋の通し方があって然るべきである。
相手が牙をむいて来たら、途端に怖じ気づき、あたふたと狼狽し、地検が勝手に判断し釈放したのだと云う。
赤っ恥もいいところである。
また、29日の細野豪志前幹事長代理の首相特使も笑止である。仙石官房長官はその時点で、「ボールは中国側にある」と明言していたのに、なぜ、わが国がわざわざ出向いて行かねばならぬのか。私は調整に動くなと云っているのではない。外交上の調整とはまさに、内々に行なわれるもので、相手にボールがあると建て前で云うのであれば、中国側が動くまでこちらから表立って訪中する特使などは、外交上の駆け引きではあり得ぬ悪手中の悪手である。
そして、止(トド)めが今回の日中首脳会談の究極のミスである。
頭を下げて、何とか首脳会談をセットしようとしていた様子だけで、日本側のうろたえ振りが国際的にも失笑を買っていた。そのなかで、鼻面を取って引き回されるような形で、廊下で会談したというではないか。場所が廊下であろうが便所であろうが、双方が平等の条件で臨んだ会談であれば、文句はない。
しかし、現実は、中国側は会談を決意したと同時に、中国外務省の日本語の堪能な日本担当者を同席させた。その一方で、日本は会談を渇望しながらも、そもそも、中国・モンゴル課長すらASEM自体に同行させていなかったというではないか。
素人でも分かるが、あまりにもお粗末である。
日本は、中国語を一切理解できぬ首相と英語通訳だけ。対する中国は対日政策を熟知する日本語堪能な人物と温家宝首相。
案の定、会談翌日の新華社は、「温家宝首相は『釣魚島は中国固有の領土だ』と改めて強調した」ことを、記事の冒頭に載せ、世界に向けて配信した。日本は「やあやあ、座りましょうという感じで自然に、普通に会話ができた」と、首相が悦に入り、「阿吽の呼吸で(会談が)調整された」だのと、能天気も度を超している。
それこそ日本が実効支配を続けている尖閣諸島が、一挙に実質的領土問題として日中間に浮び上った瞬間であった。
愚かである! あまりに稚拙で不勉強である。
この将来にわたる国益の毀損を菅直人という人物は、どのように穴埋めするのか。議員を止めれば済むような話ではない。まさに国賊である。昔であれば、「一族郎党、市中引き回しの上、獄門打ち首の刑」だと、叫びたい心境である。
こんな体たらくの国を放っておく手はない。
幕末ではないが、ロシアや韓国などが北方領土や竹島は、「俺のものだ」と、列強国が牙をむいてくるのは火を見るよりも明らかである。