松代散策=1−松代町の概要
松代散策=3−佐久間象山(象山神社・象山生誕の家跡・蓮乗寺)
松代の趣きある町並みを紹介する前に、このことだけは先に話をしておくべきであると考え、最初に取り上げる。
それは太平洋戦争末期の虚しくも時代の狂気をも感じさせる遺跡についてである。戦局悪化のなか、本土決戦最後の拠点として極秘裡に皇居、大本営、政府機関を松代に移転させる計画があった。その話は私もかつて半信半疑の思いで耳にした記憶があったが、実際に昭和19年7月の東條内閣最後の閣議で移転計画が了承されていた。
松代にある象山、舞鶴山、皆神山の三ヶ所に地下壕を掘り、そこに国家の中枢機能を分散、移転させるというものだ。象山地下壕には政府機関、日本放送協会、中央電話局の施設を、舞鶴山には皇居、大本営を、そして地盤が脆弱な皆神山には備蓄庫を建設する予定であった。三つの地下壕の総距離は10kmにおよぶという壮大なものであった。
計画は昭和19年(1944)11月11日の象山の発破により開始され、終戦の日まで工事は続けられたが、その時点での進捗度は75%であったという。
無謀で狂気の沙汰ともいうべきこの難工事に、朝鮮人7000人、日本人3000人が12時間二交替の動員をかけられたという。工事に関わった延べ人数は61万600人にのぼったと記録されている。
象山地下壕は総延長5853m、そのうち500mのみが公開されている。常備のヘルメットを被り、岩肌が剥き出しの地下壕を歩く。天井部分の両端には一定間隔で電燈がついているが、坑内は足元はしっかりと見えるものの、先のほうを見透かすとかなり薄暗く、見通しが悪い。
薄暗い隧道(すいどう)
大粒の砂利道の隧道(すいどう)を歩くうちに、壕内に自分の足音が木霊していることに気づく。その音色は不気味で、立ち止まって耳をすますと、愚かな人間の決断に翻弄された人々の怨嗟の声だろうか、ウ〜ンといううめき声のような音が反響してくる。地下壕は碁盤状に掘削されている。見学路の左右にムカデの足のように伸びるその壕の暗闇のなかから、戦争の狂気を既に忘却した今日のわれわれに、なじるような視線が投げかけられているのを感じた。
トロッコの枕木の跡がつい昨日のようについている
狂気の沙汰の地下壕
横方向の壕からなじるような不気味な視線が・・・、
掘削機の削り跡も生々しい壕内にひとり立ちつくしていると、人はここまで理性を失い、狂うことができるのかと戦慄すら覚えた。まさに凄惨であまりにも寒々とした、悲しくもむなしい光景である。若い人々にも松代を訪れた際には、是非、象山神社から徒歩で数分のところにある、この愚かしい狂気の地下壕に足を伸ばしてもらいたい。そして、人間という生き物はちょっとした弾み、ボタンの掛け違いで、このような狂気じみたことを集団催眠にかかったかのように押し進める、そんな危うい生き物なのだと肌で感じて欲しいと願う。
地下壕入口に建つ「不戦の誓い」の石碑