榛名神社本殿境内と屏風岩
榛名神社の本殿境内(右から拝殿・神楽殿・屏風岩・杵築社)

榛名神社は用明天皇元年(586年)に創祀された延喜式内社である(当社由緒より)。御祭神は火産霊(ほむすび)神と埴土毘売(はにやまひめ)神を主祭神とし、明治以降に大山祇(おおやまずみ)神、御沼龗(みぬまのおかみ)神、大物主神、木花咲耶姫(このはなさくやひめ)神が合祀された。

合祀された御沼龗(みぬまのおかみ)神たる高龗神は水をつかさどる龍神であるが、榛名富士を対岸に望む榛名湖畔に位置する御沼龗(みぬまのおかみ)神社で御祭神として祀られている。


榛名富士と御沼龗神社

まず、車を駐車させたところに二之鳥居がある。通常はここから参詣の歩を進めることになる。それでは、
パワースポットとしても有名な榛名神社を紅葉を愛でながら写真にてゆっくりと参拝してゆこう。


二之鳥居、この坂の左手に駐車場

鳥居の先、すぐ正面に随神橋と“随神門”が見える。

  
随神橋と随神門  随神門の右脇に七福神の毘沙門天

榛名神社参詣のもう一つの楽しみに境内に祀られる七福神の像を見つけながら歩くのも一興であるが、実は“毘沙門天”を見つけるのが最も難しい。と云うのも、随神門の脇に隠れるように置かれており、一路、本殿をと勇んでこの門をくぐってしまい、脇から廻り込む人はまずいないからである。その袂に七福神の“寿老人”が建っている。



随神門、境内内から

さて、随神門をくぐるとすぐに朱塗りの欄干の“禊ぎ橋”がある。

   
禊橋とその手前袂に建つ”寿老人”


巨木に陽光がさえぎられ、薄暗くなった参道は上り坂となり、辺りは深山幽谷の景観となる。

  

眼下に清流を眺め、右手にはいよいよ榛名神社特有の景勝である奇岩、巨岩が目についてくる。その最初が“鞍掛岩”である。まさに奇岩である。


中央アーチ型の岩が鞍掛岩

その辺りの石柱に太平洋戦争前後に活躍した喜劇王エノケンこと“榎本健一”の名が寄進者として刻まれている。昭和20年に四万温泉の老舗旅館・積善館を訪れているので、その際に榛名神社を詣でたのではないかと推察される。ちょっとオタクっぽいが、こんな小さな発見もあったりして神社詣では楽しい。


石柱に榎本健一の名前あり

さらに坂を登った左手山腹に朱塗りの鳥居が見えてくる。火伏せの神、秋葉大権現を祀る秋葉神社である。

秋葉神社の鳥居  
秋葉神社の鳥居とその前を通る参道

深山の趣満載の参道からの景観

その先すぐに愛らしい“布袋さま”が建っているがそれを横目に石畳をエッチラホッチラ上ってゆくと売店やトイレのある処に出る。そこで小休止して、傍らの水琴窟近くに“福禄寿”を見ることができる。

     
布袋さま                福禄寿とそばにある水琴窟


そこからゆるやかな勾配の坂をゆくと階段上に三重塔と三之鳥居が見えてくる。

    


三之鳥居のところに“恵比寿さま”が建つ。


三重塔は神仏習合時の名残りであるが、現在は神宝殿と呼ばれ、天之御中主(あめのみなかぬし)神はじめ5柱の神様が祀られている。

三重塔を過ぎると、岩壁にへばりつくようにして落石避けの屋根のあるトンネルのような参道へ入る。その途中の岩穴に賽の神を祀る“賽神社”がある。

  
落石防護の屋根のある参道  岩肌に掘られた穴に賽神社が祀られる


トンネルを抜けると“神橋”があり、左手欄干越しに安藤広重が描いた“行者渓”の奇観が目にできる。

      
神橋、右手が行者渓         神橋から見る異形の巨岩・行者渓

その先、岩肌に沿う細い参道が続くが、途中に神仏習合時に存在した東面堂の秘仏千手観音を納めた祠を塞ぐ扉が巨岩に貼りつくように残されている。

      東面堂の名残り・秘仏を納めた祠を塞ぐ扉が見えます
神橋から岩肌に沿うような参道                  東面堂・岩の祠を覆う木の扉


東面堂のすぐ脇には七福神の “弁財天”が微笑んでいる。

そしてしばらくすると、朱色の柵に囲われている井戸があるが、雨乞い講の史跡である“万年泉”である。そこから昇る階段の上には鮮やかな紅葉と御水屋の屋根が見えてくる。

  
階段下の万年泉            階段上に御水屋が見える

御水屋には人がいっぱいだったが、この前から瓶子瀧(みすずのたき)を眺めることができる。

  
人でいっぱいの御水屋         その前から瓶子瀧が見える


かつてはここに閏年のみ13(通常年は12)に葉が分かれたという樹齢数百年の暦杼楓(れきじょふう)という見事な紅葉が植わっていたが、平成18年8月3日夕刻に根元からポッキリ折れてしまったとかで、現在は案内板に其の名を留めるのみである。

暦杼楓・榛名神社HP  
平成18年に折れる前の暦杼楓 右が現在。鎖の部分に暦杼楓があった


本殿へ向かう急な石段の手前に武田信玄が戦勝祈願として奉納する矢を立てかけたとの言い伝えを残す“矢立杉”が秋の空を貫くように聳えている。

      
御水屋前に屹立する矢立杉      神門へ向かう急な階段

いよいよ神域への階段を昇ってゆくが、途中左手に重要文化財“御幸殿”がある。


御幸殿

そして階段を昇ったところの“神門”に到達。神門をくぐると小さな平地となるが、そこに七福神最後となる“大黒様”が鎮座する。

    
神門とその内に建つ大黒天


大黒様をあとに今度は“双龍門”へとUターンするように急階段を昇るが、その後背には鉾岩が聳え立ち、パワースポットとしての雰囲気は満点である。

         
神門と双龍門         双龍門への階段・聳えるのが鉾岩


重要文化財の“双龍門”は梁や重い扉に龍の彫物が施されているためその名がある。


      
門扉左の降龍             門扉右の昇龍

羽目板には三国志に題材をとった見事な彫物もあり、この門だけでもじっくり拝見する時間をとらねばならぬほど美術品としての価値を有す。

  
三国志由来の見事な図柄が彫り出されている

さらに本社境内から双龍門を見下ろすと、入母屋造り、千鳥破風、四面に軒唐破風といった圧巻の美しい屋根を見下ろすことができ、この位置からもぜひ双龍門をご覧いただくとよい。

漸く榛名神社本社境内に立つことになるが、そこは一種異様な凄みを帯びた空間である。

    
国祖社から拝殿を             左より拝殿・弊殿・本社

神楽殿、国祖殿、本殿の後背を巨岩、奇岩が取り囲み、古代人がこのわずかな平坦地を、神の降り立つ神籬(ひもろぎ)の地と感じたであろうことは容易に想像がつく。

  
国祖社

神楽殿

本殿、国祖殿とゆっくりと参拝したが、彫物の圧倒的迫力には眩暈を感じた。

    
拝殿扁額                拝殿の豪奢な彫り物
    
拝殿横から               縁の下にも彫り物が

その豪奢さは見事のひと言に尽きる。そして本殿の後ろに天を衝くように聳え立つのが“御姿岩”である。

 


そもそもこの御姿岩こそが古代、山岳信仰の対象であったと考えるが、巧まずしての自然の造形物はまるで地上界を睥睨するかのようであり、その孤高の姿には畏れすら覚える。

御姿岩を仰ぎ見ると、頭部の下、人間で云う頸部には御幣が飾られている。

古代から篤い崇敬を受けてきた御姿岩。拝殿、弊殿につづく本社がこの御姿岩に接し、その先の岩奥にご神体を祀っていることにその証しをみる。

本殿の鎮まるわずかな平坦地が聖なる地であることは、深山のなか御姿岩や屏風岩など奇岩に囲まれ、またこの高処の正面空間に九十九石(つづらいわ)など異形の景観が拡がっていることにも強い神の意思を感じ、まさに霊感スポットである。

           
まさに奇岩である、九十九石       九十九石と砂防ダム       その手前にも天を衝く巨岩が・・・

今回は紅葉の時季であったため観光客も多く、深山としての静寂にいささか不満を覚えるところもあったが、それを超えて厳粛さがひしひしと身内に沁み込んで来たのも紛うことなき事実であった。