石原慎太郎東京都知事が「私も最近、いじめられていますが・・・」と折に触れてつぶやいていることが、大晦日の東京新聞に載った。

 

 昨年11月に共産党都議団により「超豪華海外出張の浪費の実態について」という文書の公表にはじまり、「余人に代え難い」四男が関与する都の文化振興施策「トーキョーワンダーサイト」事業や、都知事と三男宏高衆院議員が水谷建設元会長等から受領したとされる政治資金収支報告書未記載の資金提供疑惑など石原知事をめぐっては都政私物化や資金受領疑惑などの問題が一挙に噴き出してきた感がある。

 

しかしこの問題にはなぜか大手メディアは腰が引けて、記事に取り上げるにしても犬の遠吠えのようでどこか恐る々々報じているように思えてならない。こうした状況のなかで12月17日のフジTV放送の情報番組「スタメン」に石原知事が出演した。そのとき爆笑問題の太田光のいつもの口を尖らせた生意気さは影を潜め、ほかの出演者も各種疑惑を問いただすどころか、都知事に一方的に弁明の機会のみ与えてしまった。そのことに対して番組放映直後からネット上ではさまざまな批判がなされたが、そのことが大手メディアで大きく報じられることはなかったのである。

 

 また都庁における定例記者会見でも都合の悪い質問には、都知事が恫喝するように声を荒げる場面が目立つ。そしてこの大晦日の東京新聞の記事を目にして、誰が石原都知事をいじめているのかと首を傾げざるをえなかった。仮にも都知事は文学者ということになっている。言葉に対しては政治家の命である以上に、こだわりと矜持を有しているはずである。いじめとは「弱いものを苦しめる」ことをいうことは、私ごときがお教えするまでもない。先刻ご承知のことで、ちょっとした軽口であったのだろう。

 

 しかしその軽口こそ石原都知事が今置かれているご自身の立場が分かっていない証左であると言わざるをえない。都民は今まで報じられているさまざまな疑惑について、都知事自身の口からちゃんとした説明をまじめに聞きたいのである。石原慎太郎氏は間違ってもおちゃらけや軽口でこの問題をうやむやにすることなどあってはならぬことを知るべきである。問い詰められて都合が悪くなると突然、政治家から文化人の顔に変わるなどもってのほかである。取沙汰されている都政の不透明さは政治家石原慎太郎としての所業についてのものだからである。政治家として都民の納得のいくように説明責任を果たすべきである。

 

 なぜ04年6月の8泊10日のレッドウッド国立公園やグランドキャニオン視察など米国出張に夫人を同伴し、宿泊費、ファーストクラスの飛行機代が都民の税金から払われる必要があったのか。共産党都議団作成の資料にはその出張目的として「都立自然公園の適正利用に関する新たな仕組みを検討するため」とある。夫人がその目的のためになぜ同伴せねばならぬのか、「公園の適正利用」よりも「税金の適正利用」について明快な説明が欲しい。

年末22日に突然、スポークスマンを設けたが、一連の問題については知事自身の口でその説明をすべきである。これは知事の「都税の私的使用」つまり事の次第では「公金横領」に当たる問題であるからである。まかり間違ってもご自身の身の潔白を晴らすのに、税金で雇われている「スポークスマン」を都政以外の仕事で使ってならぬことは十分お分かりのはずである。文学者として十分な日本語力をお持ちの方であるのだから尚更のことである。